まちづくりのプロに聞く!まちづくりを加速させる「仲間」のつくり方

「まちづくり」と聞いて「行政がすること」なんて思う人もいるかもしれませんが、そもそも何をすること? まちの空間や建物を整備するという意味もありますが、「既存の“まち”をより良く“つくり”変えていく」という意味も。

つまり、そのまちで暮らす人々がまちづくりのキーパーソンになれるのです。今回紹介する「大牟田ビンテージのまち株式会社」代表の冨山博史さんもそのひとり。人口減少が叫ばれる中「関係人口」に着目し、仲間を巻き込みながら大牟田市のまちづくりに取り組む活動内容をライターの山本佳世さんが伺いました。

目次

大牟田市も例外ではなかった。地方都市が抱える問題に直面

日本は65歳以上の高齢者の割合が30%に迫る勢いとなっています。大牟田市も同様に少子高齢化や人口流出の影響を受け、1959年のピーク時に約20万8千人いた人口が昨年度は約11万人と半数近くまで減少。

さらに2014年に発表された消滅可能性都市(2010年から2040年にかけて若年女性人口が5割以下に減少すると予想される自治体)に挙げられました。冨山さんはこの人口減少問題が身近なところに影響していることを実感したそう。

「大牟田ビンテージのまち株式会社」代表の冨山博史さん

冨山さん:「現在、大牟田市で飲食業や不動産業などに携わっているのですが、それらの事業を通してわかったのは“人口が減る=まちのモラルが下がる”こと。空家や空室が増えるとゴミを捨てる人が増えてまちが汚れ、治安も悪くなる。そうしてまちの魅力が減ると若者は他の都市に移ってしまう…。

こうした悪循環が出生率の低下や人口流出に直結し、税収が低下して都市機能も失うという社会問題に繋がるのではないかと懸念するようになりました。」

大牟田市は1959年に人口のピークを迎えていますが、日本全体で見ると2004年をピークに人口は減少。冨山さんはこのことから、大牟田市は日本がこれから直面する課題を40~50年先に経験している“社会課題先進都市”として何か新しい取り組みができるのではないかと考えるようになりました。

冨山さん:
「社会的な課題を地域の困りごとやニーズといった身近な問題として捉えると、仕事として何か見えてくるのではと意識するようになりました。

また僕には3人の子どもがいるのですが、消滅するといわれる2040年に、彼らは20代になります。その時にふるさとが消滅していると思うと悲しいし、辛い。この子たちがずっと住みたい、働きたいと思えるまちを残したいと思ったことが、まちづくりに挑戦してみようかと考えるきっかけになりました。」

理念をロゴデザインにおりこみ、ロゴの文字が、ビルや建物、人の顔に見えるようにしている

▽大牟田ビンテージのまち株式会社のFacebook
https://www.facebook.com/omutavintagenomachi/

そうして冨山さんは、2014年に「大牟田ビンテージのまち株式会社」を立ち上げ。本格的にまちづくり活動をスタートさせることになりました。

清掃活動・カフェ・リノベーション!多彩なまちづくり事業を展開

『地域とともにきらめく街づくり・人づくり』を企業理念に、人口減少のきっかけとなる社会問題を解決する“ソーシャルビジネス”を展開する冨山さん。

DIYリノベーションによって空き家やシャッター商店街を再生する事業や大牟田駅前のカフェ運営に取り組む傍ら、「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに誕生したゴミ拾いプロジェクト「グリーンバード」の大牟田チームを作って週に1回の清掃活動も行っています。

冨山さん:最初は自分たちができることから始めようと、協力者を募ってゴミ拾い活動に取り組むことにしたんです。

次に空室問題を解決するため、空き家のDIYリノベーション再生を始めました。2015年には商店街の空き店舗を入居者や地域住民がDIYでリノベーションをして、新しい店舗を増やしていく市と商工会議所の事業「街なかストリートデザイン」にも携わるように。この事業を通じ、20店舗まで減った商店街の店舗を32店舗まで増やすことができました。」

昨年には、大牟田駅西口駅前広場に設置されている旧路面電車204号に、フルーツサンドとコーヒーのお店「hara harmony coffee」をオープン。

お店の外観はもちろん、店内もまさに電車そのもののユニークなカフェです。
季節のフルーツを使ったフルーツサンドは常時10種類程度がそろっており、お値段は500円前後。そのほか、たまごサンドやベーコンポテトサンドなども販売されています。

こちらのカフェは、冨山さんが大牟田市の公募事業に応募したことがきっかけで始めた事業。地元の方に愛され、約60年営業を続けた老舗喫茶「コーヒーサロンはら」の味を引き継いでいるのだそう。


【hara harmony coffee】
住所:福岡県大牟田市久保田町2丁目300番 駅前広場 路面電車204号
営業時間:9時〜18時
定休日:火曜日
電話番号:0944-57-2042
https://www.instagram.com/haraharmonycoffee/

このカフェが大牟田市駅前の新たな観光スポットにもなり、まち全体ににぎわいをもたらしています。

2020年の豪雨災害もまちづくりの在り方を考え直すきっかけに

昨年の夏、大牟田市は例年にない豪雨に襲われ、市内各地で浸水被害が起こりました。冨山さんはインターネットを通じて支援物資を募り、必要とする人に配るボランティア活動を開始。すると、2tトラックの何台分もの物資が全国から届けられたそう。この出来事がまちづくりの新たな気づきにつながったと言います。

冨山さん:「人口は減っているものの、全国には大牟田市のことを応援する人がたくさんいることに気がついたんです。人口って地域に住んでいる実際の数しか見られませんが、大牟田市のことを思っている人や関わりを持っている“関係人口”はたくさんいる。定住人口や交流人口を増やすだけでなく、関係人口を増やすことが次世代の担い手を増やすことにつながるんじゃないかと考えました。」

まちづくりの一貫として、マルシェの学校をスタート

そしてこの秋、新たなまちづくり事業として冨山さんは大牟田駅西口駅前広場に「マルシェの学校」を開校します。

マルシェの完成イメージイラスト

「コロナで制限された生活圏に、定期的にマルシェを開催することで少しでも豊かな日常をつくりたい」というのが背景にある思い。マルシェについて学び実践することを目的に、勉強会、屋台やベンチを作るDIYワークショップ、場所提供者のマッチングなどを行っていく予定です。

冨山さん:「「交流人口から関係人口へ」をテーマにまちづくり活動する中でマルシェの開催を思いついたのですが、「マルシェを始めるにはどうすれば?」「そもそもマルシェって何?」という疑問が沸いてきました。そこで、DIYやカフェの運営で関わってきたいろんな方を巻き込みながらみんなでマルシェについて学び、運営していきたいと感じ、学校をオープンするためにクラウドファウンディングにも挑戦しました。」

▽クラウドファンディングでは、目標金額の220%を達成した
https://camp-fire.jp/projects/view/471292

冨山さんにとってクラウドファンディングは新たな挑戦。資金調達ももちろん目的のひとつでしたが、それよりも一緒にまちを盛り上げていってくれる“仲間づくり”がしたいという思いが強かったのだそう。

冨山さんが、“仲間づくり”で大切にしていること

DIYリノベーションやカフェ、マルシェなどといったアクションを通じてまちづくりを行っている冨山さん。活動を通して生まれた人とのつながりを次の活動へとつなげている印象がありますが、同じ志を持つ仲間を増やすコツについて伺いました。

①活動に社会性を持たせる

冨山さん:「以前「自分がやりたいことに社会性を持たせると、自然と人はついてくる」という意味合いのことばを耳にしたことがあるのですが、まさにそうだな、と。基本的に僕らが実施しているまちづくりには、根底に「街を活性化させたい」という強い想いがあります。そこに、しっかりとした“社会性”があるからこそ人が集まり、手伝ってくれるのかなと感じています。」

②信用と信頼づくり

冨山さん:「「過去の信用」は、自分の行動によって信用を築いていくこと。僕の例で言うと、グリーンバードでゴミ拾いをすることが信用につながったのでは。そうした「過去の信用」をコツコツと積み重ねることで、「未来への信頼」が生まれるんだと実感しています。」

自社物件をDIYでリノベーションをする際に開催した、ワークショップの様子。
大牟田市外の大家仲間(久留米・福岡市)や、大工さん、友人、建築学科の先生と生徒さんなど…
冨山さんの新たな活動を応援しにたくさんの仲間が駆けつけた

楽しいと思える地方都市を日本中に広げたい!

最後に、これから大牟田をどんな街にしていきたいか、目標を伺いました。

冨山さん:「大牟田市のように人口が減少して社会課題も多く抱える地方都市はまだまだ増えると思います。そんな地方都市から見て大牟田市が社会課題解決の糸口につながるモデル都市になったらいいなと。その流れが広がり、日本全体に「地方都市って楽しい」という風潮が広がるように活動していきたいと思います。」

クラウドファウンディングは目標の220%を達成し、66万円の支援が集まりました。資金は講師への謝礼やマルシェ屋台制作費に充てられるそう。そして「マルシェの学校」は10月24日に第一回目の活動をスタートする予定。これから大牟田市にマルシェによってどんなアクションが起こるのか注目です。

【大牟田ビンテージのまち株式会社 代表 冨山博史さん】
福岡県大牟田市出身。大学卒業後大手玩具メーカーに勤務。その後大牟田市に戻り、現在、株式会社カンカングループ 取締役副社長、株式会社CREA 代表取締役、大牟田ビンテージのまち株式会社 代表取締役を兼務。
大牟田ビンテージのまち株式会社では、『hara harmony coffee』の店頭に立ちながら、空き家やシャッター通りの再生事業に取り組んでいる。

文=山本佳世

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

成長する地方都市 #福岡 のリアルな姿を届けます。福岡のまちやひと、ビジネス、経済に焦点をあて、多彩なライター陣が独自の視点で深掘り。 「フクリパ」は「FUKUOKA leap up」の略。 福岡で起こっている、現象を知り、未来を想像し、思いをめぐらせる。 飛躍するまちの姿を感じることができると思います。 https://fukuoka-leapup.jp

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