福岡の書店員さんに福岡ゆかりの本を紹介してもらうファンファン福岡の「福岡キミスイ本」シリーズ。22回目は「福岡金文堂 大橋駅店」(福岡市南区)店長の脇坂健一郎さんを訪ねました。なかなか外出がままならない中、家で読書する人も増えているとか。今回は、どんな本を教えてもらえるでしょうか。
鎌倉時代の博多が舞台。神風だけじゃない「元寇」についての漫画って初めてじゃない?
「アンゴルモア 元寇合戦記 博多編」第一巻、第二巻 たかぎ七彦
―西鉄大橋駅ビル内にある店舗へやって来ました。こんにちは、今回紹介してくださる本は? はい! 2018年にテレビアニメ化もされたコミック「アンゴルモア 元寇合戦記」の新編で、「アンゴルモア 元寇合戦記 博多編」(角川コミックス・エース、620円+税、既刊2巻)です。現在、無料コミックポータルサイト「ComicWalker(コミックウォーカー)」でweb連載中でもあります。 ―元寇というと「玄界灘に神風吹いてばんざーい!」の? そのイメージを持っている人はまだ多いと思いますし、歴史の授業などで勉強した人もいると思いますが、鎌倉時代に当時のモンゴル帝国が日本を侵攻してきた戦のことですね。題材としては派手というか、興味深いと思うのですが、意外と「元寇」を扱っている作品って少ないんですよ。
―確かにパッと思い付く作品がないような…三国志だといろいろあるのですが。 そうなんです。それが偶然にも7月に講談社から発刊された帚木蓬生さんの時代小説「襲来 上・下」(講談社、上巻860円+税、下巻820円+税)も元寇がテーマ。僧侶の日蓮から見た元寇の話で、「アンゴルモア」とはまた違った視点で書かれています。元寇にまつわる作品を紹介したかったので、「アンゴルモア」と「襲来」のどちらを紹介するか迷いましたが、今回は読みやすい方の「アンゴルモア」にしました(笑)。
―「元寇」にまつわる作品を紹介しようと思ったきっかけとは? 実は私、とてもゲームが好きでして。7月に発売されたプレイステーション4用のゲームソフト「Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)」の発売前告知映像を見て、その美しさや迫力に「なんだこれは!」と衝撃を受けたんです。そのゲームの題材が元寇で、興味を持ちました。それから自宅待機の期間中に動画サイトでアニメの「アンゴルモア」を見たのも大きいですね。
―なるほど、立て続けて元寇についての作品に接する機会があって気になったのですね。 そうなんです。アニメは「博多編」の前に月刊誌で連載されていた「対馬編」で、コミックで読むのとは違う、疾走(しっそう)感があります。今回紹介しているコミックの「博多編」だけでは話がつかみにくいと思うので、アニメを一気見してもよいですね。 ―「アンゴルモア」のここが面白いというポイントを教えてください。 「博多編」は、鎌倉時代当時の福岡県の地形や地名がよく調べて描かれているので、現在の福岡県と比較して「ここって昔は海だったんだ」とか、そういう楽しみ方もできるのが面白いです。元寇についても、学校で学んだことって少なくて、知らないことばかり。だから史実としても、物語としても楽しめるのがいいなと思います。
―キャラクターの魅力などもあれば教えてください。 主人公の朽井迅三郎は、当時権力を持っていた北条氏の内紛で負けた側の人間。鎌倉幕府によって対馬へ流刑された“敗北者”なんです。敵の船にしがみついて博多まで戻ってくるシーンなどは「絶対無理でしょ(笑)!」と思うのですが、そんなアツさや根性があるところが魅力ですね。 ―コミックならではのフィクションのだいご味もありつつなんですね(笑)。 とはいえ、細やかに歴史に則っていて、作者のたかぎさんが緻密に取材されているのだろうなというのが物語全体からも感じられます。特に巻末に2ページほど書き下ろされている雑記帳のようなコラムは、読んでいて「なるほど」と思わせられる内容で、ここを読むのも、すごくためになるはずです。 ―福岡を舞台にした歴史が分かり、敗北者側が主人公という注目すべき1冊、夏休みにぴったりですね! ありがとうございました。