現代日本演劇界を代表する演出家・栗山民也さんと気鋭の劇作家、演出家・瀬戸山美咲さんが組み「安保闘争」をテーマにした舞台「彼女を笑う人がいても」が12月22日(水)、福岡市民会館(福岡市中央区)で上演されます。主人公を演じる瀬戸康史さんをはじめ、木下晴香さん、近藤公園さんなど魅力的なキャストが出演します。今回が初舞台という渡邊圭祐さんに、絶賛稽古中の本作についてリモートでインタビューしました。
―今回の配役は。
この作品はだいたい皆さん1人2役しているのですが、僕も現代と1960年代の二つの時代に1役ずつあります。現代の方では瀬戸さんが所属している新聞社の後輩役で、本当にイマドキというか、現代を象徴しているような役柄です。
1960年代では、東大の学生運動を行う人々と同じ学生なのですが、学生運動とは別の活動を行っている、地域の人と交流する意志の強い学生の役を演じています。
―初舞台ということで、事前に準備したことなどありますか。
特別具体的にしたことはないです。というのも、瀬戸さんと一緒にいろいろ取材を受けている中で、瀬戸さんに「今回初舞台の渡邊さんに向けたアドバイスは」という質問がすごく飛んでいたのですが、それに対して「舞台と映像で違うことはあってもやることは一緒です」と仰っていて。僕自身もともと舞台に興味はあって、いろんな共演者の方から「映像とは違う魅力があるよ」とは聞いていたのですが、「やることは確かに一緒なんだ」と思いました。
確かに普段よりちょっと舞台作品を見に行ってみたり、今回演出される栗山さんの舞台を見に行ったりはしました。
―最初に舞台の話が来た時の率直な感想は?
率直な感想は「ほう、舞台かあ」です(笑)。僕はすごく地元(仙台市)愛が強くて、役者として何か地元に還元したいという気持ちがすごくあるのですが、地元で暮らしていた時に舞台って縁遠いものだったんです。友達と話していて「あの舞台見にいった」という話も聞かないし、こういう舞台がいつどこでやっている、みたいな情報すら耳に入ってくることがなかった。そうなってくると映像の方が身近だし、映画やドラマの方が手軽に見られるんじゃないかなと。
でもいろんな人の話を聞いている中で、この仕事をやっていく上で、せっかくすばらしい座組でやらせていただける機会をいただいたのだし、経験として大きなものになるのではないかなと思い、決断しました。
―現在稽古中ですが、演じる上で難しいと感じること、または一番面白いと思ったことは。
舞台ってひとつのシーンに時間をかけて作り上げていくのですが、そういった経験が僕は初めてなので「面白い!」と感じると同時に、難しさを感じます。ものすごくスピーディーに展開していくので、まだ場面を自分の中でかみ砕き切れていないというか。セリフのひとつひとつに栗山さんから演出があったりするのですがそのスピード感も早くて(笑)。まだついていけてないなと思っています。
―舞台とTVではそこが違う?
そうですね、舞台の方が情報量が多いです。映像は映像で瞬発力が必要にはなるのですが、舞台はその瞬発力がずっと必要っていう感覚。持続力が求められているなと思います。
―テーマが「安保闘争」ということで、その時代の空気を出すために演じる際心掛けていることなどはありますか。
つくり上げている最中ではありますが、栗山さんの演出から感じるのは、言葉の使い方とか熱量が現代とは全然違うなと思います。1960年代の人たちの使う言葉は、その人の内側のパワーみたいなものが全部のっていて、あまり浮ついた言葉が使われていないなと。なので、60年代の役柄を演じる時は自分の心のうちを発する言葉にのせていきたいと思いますし、逆に現代の役柄を演じる際は“軽さ”というか、今っぽさを出して対比させられればと思っています。
―栗山さんの演出で印象的だった言葉は。
一番最初に仰っていた「日本人は言葉から逃げている」という一言が僕の中ではしっくり来ているというか、心にストンと落ちています。本作のキーワードにもなる言葉なのではないかなと思います。
―渡邊さんにとっての「言葉」とは?
言葉かあ…。「面白いもの」かな。使う人によって伝わり方も違うし、言葉の温度みたいなものによっても違う。言い回しとかも、こういう場面でこういう言葉を使ったら面白いなとか。
―脚本を読んだ際の印象は。
「安保闘争」とか1960年代をテーマにした話ということは最初にざっくりと聞いていたので、もしかしたら難しい話になるのかなと個人的には思っていました。でも台本が届いて読んでいたら意外とって言っていいのかな、メッセージ性の伝わりやすい、ストレートなお話でした。
多分見に来られる方の中にも、「1960年代かあ、なじみがないなあ」って、肩に力が入ったというか気合を入れて来られる方もいるかもしれないんですが、気軽に見に来てほしいと思います。それでも心に刺さる物語になっていると思うので!
―共演者の方たちとも初ですが、稽古中どういった話を。
そうですね。もう皆さん自分も含め学生の年齢ではないというか…大人になってしまっているので(笑)、それこそテーマに合わせて学生時代の話とか、あとは被災地が題材になっている部分もあるので、そういった話もします。あとは本当に雑談です。「昨日何食べた?」とか。
―福岡の印象は。
酒飲みにうれしい街、です(笑)。ご飯がおいしくてお酒がおいしい。仕事でしかまだ訪れたことがないのですが、その短時間ですらこんなに面白いなら、プライベートで来たらもっと面白いだろうなとその時は思いました。結構お酒は好きで、赤ワイン以外ならなんでも飲みます(笑)。基本は相手が飲むものに合わせて飲むスタイルなのですが、そういえば福岡で飲んだ日本酒がすごくおいしかったのは覚えています。焼酎のイメージが強かったのですが、今回の公演の際も酒蔵があれば寄って買って帰ろうと思います!
―作品に対する思いなど。
演じながら言葉の持つ力というものをすごく感じているし、自分に足りないものが見えてきているので、成長のきっかけにしたいと思っています。言葉の重さを改めて分からせてくれる作品なので、見ている方にも伝わればいいな。
―今後演じてみたい役柄は。
男くさい作品には出てみたいですね! 男だけでわちゃわちゃしているような。任侠ものの映画とかがっつりしたコメディーとか、今までやったことのないものにはひかれます。
―読者へ一言。
「彼女が笑う人がいても」という作品は、すごく人の心に刺さりやすい作品になっていると思います。1960年代の話だけれど、現代に通じる何かがあると思うので、肩ひじを張らずに見に来ていただければうれしいです。それが届けられるように頑張りたいと思います!
渡邊圭祐(わたなべ・けいすけ)
宮城県仙台市出身。俳優、モデル。2018年、「仮面ライダージオウ」で初のドラマ出演を果たし、以後「MIU404」「恋はDeepに」「推しの王子様」と数多くの人気作に出演。「彼女を笑う人がいても」が舞台初出演作。
福岡演劇交差点vol.1「彼女を笑う人がいても」
<あらすじ>
雨音。
1960年6月16日。黒い傘をさした人々が静かに集まってくる。人々はゆっくり国会議事堂に向かって歩き出す。
2021年、新聞記者の伊知哉は自分の仕事に行き詰まっていた。入社以来、東日本大震災の被災者の取材を続けてきたが、配置転換が決まって取材が継続できなくなってしまったのだ。そんなとき、伊知哉は亡くなった祖父・吾郎もかつて新聞記者であったことを知る。彼が新聞記者を辞めたのは1960年、安保闘争の年だった。
1960年、吾郎は安保闘争に参加する学生たちを取材していた。闘争が激化する中、ある女子学生が命を落とす。学生たちとともに彼女の死の真相を追う吾郎。一方で、吾郎のつとめる新聞社の上層部では、闘争の鎮静化に向けた「共同宣言」が準備されつつあった。
吾郎の道筋を辿る伊知哉。報道とは何か。本当の“声なき声”とは何か。やがて60年以上の時を経て、ふたりの姿は重なっていく。
★福岡公演★
日時:12月22日(水)18:30
場所:福岡市民会館・大ホール
<終演後ポストトークあり>
登壇予定:瀬戸康史 木下晴香 渡邊圭祐 阿岐之将一
※福岡公演チケットをお持ちの方のみ参加可能
料金:S席12,000円、A席8,500円、学生席5,000円(全席指定・税込み)※学生席:当日座席指定・引換時要学生証・最後列になります
チケット取り扱い・問い合わせ:スリーオクロック 092-732-1688(平日10:00~18:30)
主催:テレビ西日本、スリーオクロック