新しい資本主義を前に、新しい銭湯を勝手に考えた

福岡でいちばん企画書を書いてきたプランナー・中村修治さんの連載第三回!今回は、勝手に課題を設定して夢想する“勝手に企画します”シリーズ第一弾です。企画ってどうやって考えるの?がゼロからわかります。

“勝手に企画します”シリーズ その1

ワタシ(中村修治)は、30 年以上のキャリアを持つプランナーである。福岡県だけを限って言うなら、ここ30年でいちばん企画書を書いて来たであろう人間だとは言われている。もうそろそろ引退を考える歳にも近づいてきたので、晩年の余力を活用して“勝手に企画します”シリーズを、勝手に始めてみた。

目次

中央区高砂に“新しい銭湯”を企画してみる!!

もう40年も前の話である。京都に住む大学生のワタシの唯一の楽しみは、銭湯に行くことだった。大学には週イチ程度しか行かなかったが、銭湯には、毎日のように通っていた。アルバイトで稼いだお金は、家賃と銭湯代とタバコ代に消えていた。

昭和から平成、令和と時代も変わり、街の銭湯は、消えていった。

残った銭湯は、ここ福岡でも、もう数える程。賃貸のアパートやマンションにも、当たり前のように浴室が着いた。学生の街でさえ“街の銭湯”の需要は風前の灯である。

銭湯組合で地域の入湯料は決められている。その上、日常使いをする集客数は激減。

街の銭湯が経済的に潤うわけがない。無い袖は振れないので、設備もどんどん古くなる。

負のスパイラルの中で、街の銭湯は、次々と廃業に追い込まれている。なんともし難い構造的問題を抱えて「街の銭湯」は風前の灯である。

この課題に対して“勝手に企画してみた”。“新しい銭湯”を勝手に考えてみた。

単なる集客の問題なのか!?

銭湯という民間ビジネスにおいて、単に“集客”が課題であるなら、たんまりと開発費を充てて目先を変えれば、話題の銭湯は出来上がる。デザインが優れたもの。機能が複合的で目新しいもの。いまどきのテクノロジーを活用した最新のもの。施設にお金をかければ、それなりの話題と集客は可能となるはずである。

しかし、それって、ホントに求められていることなのか!?持続可能性のある銭湯ビジネスなのか!?流行り廃りで“銭湯”のスタイルを変更し行くだけなら誰でもできる。そんな企画は、古い資本主義社会の遺物である。先が見えている。

新しい資本主義に相応しい“銭湯”とは!?

どんなアパートにもシャワーぐらいある時代である。郊外に行けばスーパー銭湯も選び放題。銭湯に“快適”だけを追い求めるなら資本のある方が単純に勝つことになる。その快適すら消費されて廃れて行くのが目に見えている。施設改修にお金をかけ続けなければ、ユーザーの期待には応えられず、常に新しい温浴施設との競争に晒される。

“脱・集客”を達成しなくては、いつまでも施設改修にお金がかかる。競合温浴施設の動きにビクビクすることになる。“新しい資本主義”社会が到来していると言われているのに、消費され続ける銭湯を企画しても仕方ない。

“新しい公共”としての“銭湯”。

銭湯の売り上げを“入湯料×集客数”の方程式で計上し続けるなら、集客の方法を考え続けなくてはいけない。結果として、広告コストや流行に合わせた施設改修コストが必要になる。新しい競合施設が進出してきたらいつもビクビク。そんな市場競争から脱出しなくては、悩みからは解放されない。

銭湯を個人の快楽から、公共的で神聖な場所へ。

銭湯を個人の消費の場から、精神的な創造の場所へ。

“新しい公共”にふさわしい“銭湯”とは何か!?集客数×入湯料=売り上げという方程式から脱却した施設へと生まれ変わるべきだと考える。

みんなの街の“龍神の湯”。

温泉にこだわる。
みんなのお金で温泉を掘る。
源泉が見つかったらみんなで守る。
建物は、大きくなくてもいい。

しかし、有名な宮大工の方にちゃんと作ってもらう。
みんなで使い込むほどに、みんなで守りたいと思える風格ある厳かな外観にする。
小さくても、年が経つごとに、その街の誇りとなっていく。

建設費用は、サブスク権利付のクラウドファンディングで集める。
当然、そのブランドと飲泉水等による収益の分配はリターンされる。

街のみんなのプライドとなる“銭湯”とは!?
街のみんなの公共資産となる“銭湯”とは!?
街のみんなの永続的な収益源となる“銭湯”とは!?
街のみんなに御利益をシェアできる“銭湯”とは!?

名称は、『高砂龍神の湯』。
効能は、シビックプライドの向上。

こうやって綴ってみて改めてわかった。
公衆浴場とは、そもそも、そういうものだということだ。

「考えるって
そもそもに還るって
ことなのだよ。」

文=中村修二

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

成長する地方都市 #福岡 のリアルな姿を届けます。福岡のまちやひと、ビジネス、経済に焦点をあて、多彩なライター陣が独自の視点で深掘り。 「フクリパ」は「FUKUOKA leap up」の略。 福岡で起こっている、現象を知り、未来を想像し、思いをめぐらせる。 飛躍するまちの姿を感じることができると思います。 https://fukuoka-leapup.jp

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