祖母が語った不思議な話・その漆拾漆(77)「手紙」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 小学2年生の冬、B町に住む叔母が訪ねて来た。
 祖母と長い時間話し、帰って行った。

 「ずいぶん長かったね。何の話だったの?」
 「ちょっと怖い話だけど…聞くかい?」
 祖母の言葉に、もちろん! と大きくうなずいた。

 2週間くらい前のこと、叔母は友人Tを見舞った。
 Tは開発著しいB町に越してきたばかりだった。
 新しいのに格安の物件で、母親を呼んで一緒に暮らせると喜んでいたが、越して来るなり原因不明の高熱が続いた。
 叔母はまだ引っ越し荷物が散らかる部屋を片付け、おかゆを作った。
 郵便受けもいっぱいになっていたので取り込んでTに聞きながら整理していった。
 その中にあて先がなく「今すぐお読みください」と書かれた封筒があった。
 いたずらかとも思ったが、二人で話して封を開けることにした。
 手紙には以下のように書かれていた。

…………………………………………………………

 「私はこの家に以前住んでいたものです。
 時間がないので単刀直入にうかがいます。
 こちらに越されてから変なことはありませんか?

 私は家族5人で越して来たのですがその日のうちに娘たちが『家の中に知らない人がいる』と言いだしました。
 子どもの言うことと気にもしていませんでしたが、私も夫も視界の端をよぎる人影を幾度となく見るようになりました。
 それをきっかけに次々と不審なことが起こり始めました。
 夫は階段で足を踏み外して大けがを負いました。
 『階段を降りていると誰もいないはずの二階から呼ばれて、振り返ったら落ちた』と夫は言います。
 今でも杖なしでは歩けません。
 それからひと月後、長く飼っていた猫が姿を消しました。同じ頃、子どもたちが飼っていた金魚も全て死んでしまいました。
 温厚だった祖父が人が変わったようになり、私や娘たちに手を上げるようになりました。
 あまりに変事が続くため、近所でこの家のことを聞いてまわりましたが、最近越して来られた方ばかりで情報は何も得られませんでした。

 どうすることもできずそのまま暮らしていたある日、遠方に住む母親が年配の女性を伴って訪ねてきました。
 近況を知らせる私の手紙を読み、拝み屋さんを連れて来てくれたのでした。

 『この家はどうにもなりません。大事になる前によそへ移りなさい』
 一通り家の中を見て回った後、驚くほど穏やかな声で拝み屋さんはおっしゃいました。
 『これを置いて行きます。しばらくは悪い物を集めてくれます。これが黒くならないうちにこの家から出ないとだめです』
 『…もし出なかったら、どうなりますか?』
 『まず子どもさんが死にます』
 そう言うと拝み屋さんは呪文を書いた紙で包んだ木製の人形(ひとがた)を渡し、去って行きました。
 母も早く引っ越すよう繰り返し言い、帰って行きました。
 その晩、夫と話して隣町に引っ越すことに決めました。
 不動産屋さんには事情を告げましたが、担当のSさんは嗤(わら)っていました。

 それからは無事に過ごせていたのですが、たまたまこちらに来たので気になって見に来たところ、家に明かりが灯っているではないですか。
 住んでいる方が心配になり、迷ったあげくにお手紙を書いた次第です。
 あの人形は二階の押し入れの中に張っておきました。もし、それが黒くなっていれば今すぐその家を出てください。
 命にかかわります」

…………………………………………………………

 読み終えるなり叔母は二階の押し入れを見に行った。中を探ると真っ黒に変色した人形があった。
 何かに追われるような気配を感じながらすぐにTを連れ家を後にした。

 後日、回復したTと共に解約するために不動産屋を訪れたが担当のSさんはいなかった。
 「Sはこの一週間来てないんですよ。連絡も取れないし…こちらも困ってまして」社長はそうぼやいた。
 それから数日後、B町の建設現場の縦穴からSさんの遺体が見つかった。

 この不審死に関しては新聞にも載っており、祖母と二人で読んだ。そこにはこう書かれていた。
 「遺体には大きな損傷はないものの全身が黒く変色しており、現在死因を調査中」

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