新入社員の指導はただでさえ大変ですが、中には驚くようなミスをする人も…。新人のミスが指導担当の責任になるのでヒヤヒヤしながら、数カ月の研修を乗り切った体験談です。
期待の新人
私が勤めていた会社では、本社社員が新入社員を3カ月マンツーマンで研修し、支社へ送り出すという慣例がありました。
ある年の4月。私が任されたのは有名大学出身の総合職男性社員。私自身が一般職な上、それまで指導したのも一般職女性社員だけだったため、「うまく指導できるだろうか?」「私より高学歴だけど、舐められないかな?」と不安でした。
人事課に
「期待の新人だからよろしく!」と言われ、「私が担当でいいの!?」と緊張しながら対面。シュッとした新入社員は、
「Yです! よろしくお願いします!」と爽やかに自己紹介してくれ、「いい子そうかも!」と少しほっとしました。
新入社員Yくんは、細身体型に爽やかで穏やかそうな顔。あの有名な、“絶対王者”のフィギュアスケーターのようで、誰からも好印象を持たれそうな見た目でした。
何を教えても、
「はい!」とはっきり返事をしてくれ、私も安心して研修を進めました。
そしていよいよ実習。見積書作成を頼むと桁違いの額を入力、領収書整理を任せると、用紙がぐちゃぐちゃに… などミスを連発。「こんな凡ミス続けてする?」と思いつつも、Yくんは
「うっかりでした…」としょんぼり顔だし、私も「初めてだから仕方ないか…」と再指導。
上司からの突然の呼び出し
ある日、上司に提出する書類作成をYくんに任せたところ事件が。なかなかYくんから報告がない… と思っていると、突然上司から呼び出し。急いで席に向かうと、上司は怖い顔でした。
「新入社員に何を教えてるの!? ちゃんと指導してるの!?」
「え…?」戸惑っていると、上司がバサッと書類を投げつけました。
「これは…!」それは、Yくんに頼んでいた書類。なんと私に確認することなく、いきなり決裁をもらおうと上司に提出していたのです。もちろん書類はミスだらけ。「出来たら見せに来るだろう」と信じすぎ、私からYくんに声かけしなかったことが原因でした。
上司に平謝りし、Yくんに
「なぜ先にチェックさせてくれなかったの?」と聞くと、Yくんは、
「先輩の手をわずらわせたくなかったので」と自信満々な笑顔。
「いや、提出前に報告するのは当たり前だよ?」と思わず強い口調で言ってしまいました。しかしYくんは
「なるほど!」と爽やかなにっこり笑顔。
全然怒りが伝わりませんでした。
言うことだけはイケメン
3カ月の研修がやっと終わり、げっそりする私の元に挨拶に来たYくん。
「お世話になりました! 支店に行っても頑張ります!」と相変わらず爽やか笑顔でした。
「頑張ってね…」と引きつった笑顔を返すと、
「はい! 指導してくれた先輩の顔に泥は塗れないですからっ!」とドラマで聞くようなイケメンセリフを、キラキラした表情で言うYくん。疲れ切った私は「はは…」と乾いた笑いしか出ませんでした。
後日、支店の同期から
「Yって新入社員、ちゃんと指導してから送りだせよ!」と苦情が入ったことは言うまでもありません。
しばらくして私は退職したためYくんのその後を知りませんが、Yくんはどこか天然で我が道を行くところがありました。ある意味強い心で何事も乗り切ってねと、他人事になった今は思います。
爽やか笑顔も素敵なセリフも、信頼できる人がするから心に響くのか… と知った出来事でした。
(ファンファン福岡公式ライター/片岡みや)