私が勤めていた保育園では過去に産休・育休を取得した人数はゼロ。つわりが酷いから、大きなお腹で子ども達の相手は大変だから… などの理由で、妊娠発覚と共に退職する先生ばかりでした。私は知らなかったのです… 尊敬する先生方が退職した本当の理由を。
嬉しい妊娠のはずが…
保育士になって5年、待望の妊娠をした時の話です。働きながらの妊娠に、赤ちゃんを迎えることに対して喜びと不安が押し寄せました。
つわりがおさまった頃、上司に妊娠の報告と勤務継続の意志を申し出ました。上司は普段から保育士や保護者に厳しく、話かけるだけでも緊張する存在でした。
そんな上司から返ってきたのは驚きの言葉。
「なんで今妊娠したの? まさかクラスの子ども達を見捨てて産むなんて言わないよね? お腹大きくなっても子ども達と鬼ごっこできる? 子育てしながら仕事続けるつもり? 自分の子どもが熱出したからって早退とかしないよね? どれだけ園の子ども達に迷惑がかかると思っているの?」息継ぎもせずに責め立てる上司に絶句。
ここでやっと察したのです。今まで妊娠した先生方はお腹の子どもを守るために退職したのだと。
私も退職すべき? 赤ちゃんも仕事も大切にしたい
家に帰って泣いていると、夫は
「ストレスは赤ちゃんにも良くない」と退職するように優しく声をかけてくれました。もちろんお腹の赤ちゃんは大切ですが、出産しても大好きな保育士の仕事は続けたいというのが私の希望でした。
上司にマタハラだと反論することもできます。ただ私には、後輩保育士も当たり前のように産休・育休を取得できる環境を作りたいという思いが強くありました。
改めて上司に産休・育休の取得を申し出ましたが、話は平行線。妊娠を責めるような態度は変わりませんでした。腹を立てた私は
「この保育園に足りないものを知っていますか? 働くママの気持ちを理解できる保育士が足りないんですよ!」と言いました。
子どもに風邪症状があれば、すぐに仕事中の保護者を呼び出す。お迎えに少しでも遅れたら責め立てる。忙しくても愛情をもって食事を準備する保護者に
「もっとバランスの良い食事を」と粗を探して指摘する…。
そんな上司の態度によって保育園の雰囲気は悪くなっていて 、「子育てしながら働く保育士がいないからでは?」と心に貯めていた不満をぶつけてみました。すると後ろから
「山本先生の言う通りです」
「また戻ってきて欲しい」
「妊娠って喜ばしいことですよね? 私達は迷惑とは思っていません」と、私を擁護する声が聞こえたのです。
それは担任しているクラスの保護者達 でした。お迎えに居合わせた6名の保護者が、上司を睨みつけていました。私が悩んでいることを知った同僚保育士が、内緒で保護者に相談していたのです。事務所の険悪なムードから、話の内容を察して話に入ってきてくれたのでした。
今と昔は違う… 時代の流れに思うこと
言い訳を繰り返していた上司も、正論をぶつけられて
「保護者の皆さまが… 迷惑と感じていないのであれば…」と、ついに産休・育休を認めてくれたのです!
「昔は子どもを育てながら働くなんて考えられなかったのよ」と言う上司でしたが、今は共働き世帯が増加しています。働く保護者を支えるのが保育士の役目。考え方を変えなければ、家庭に寄り添った保育は難しいと感じたのでした。
そして私は産休・育休を取得して、1年後に復帰を果たしました。保護者が子どもを思う気持ちも痛いほど理解できるようになり、諦めなくて良かったと感じています。
(ファンファン福岡公式ライター / 山本a)