私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。今回は私の体験した話です。
「神社に蝉(せみ)取りに行こう!」
近所の浩ちゃんの誘いで小学一年生の私は小高い山の上にあるJ神社に出かけた。
「七匹!」「こっちは九匹!」
競争で蝉を取っていると、いつしか時間も忘れ、あたりは夕陽に染まっていた。
そろそろ帰らなければと見回すと浩ちゃんがいない。
「浩ちゃ〜ん!浩ちゃ〜ん!!」大声で呼んでみたが返事はない。
境内を走り回って探すと、上の宮に続く石段の途中に座りこんでいる。
ホッとすると同時に少し腹がたったので浩ちゃんの腕をつかんで強く引いた。
…? 動かない? 眠っているのかと思い、ゆすっても目を開けない。
6時を告げるサイレンが鳴った。
ホトホト困っていると祖母の呼ぶ声がした。
見下ろすと石段の昇り口に祖母が立っている。
「浩ちゃんが…」と言いかけた時、友人は何事もなかったかのように立ち上がりすたすたと階段を駆け下りて行った。
浩ちゃんを家に送りとどけ、家に着いた時はもう真っ暗だった。
祖母に「あそこに誰かほかの人いたかい?」と訊かれた。
不思議に思い「誰もいなかったけど…なんで?」と逆に問うと 「何でもないよ。疲れただろうから、はやく寝なさい」と明かりを消されてしまった。
この事は忘れられずその後も何度も訊いてみたが、祖母は覚えてないとしか言わなかった。
社会人になって数年後、たまたま祖母を乗せて車でJ神社の近くを通りかかった。
祖母が「昔、ここまで迎えに来たことがあったねえ。覚えてるかい?」と訊くので、もちろん覚えてるし祖母の問いも忘れた事はないと答えた。
すると祖母は「何かが浩ちゃんをつかまえてるように見えてね。あんたの真上の木にも女がいたような気がしたんで…つい訊いてしまったんだよ」
二十年の時を越え、鳥肌が立った。