祖母が語った不思議な話・その捌拾(80)「旧正月の夜」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 小学四年生から五年生に上がった年は、とにかく幸運に恵まれた年だった。
 それは1月下旬の深夜の出来事から始まった。

 夜中の二時過ぎにふと目が覚めた。
 もちろん家族も眠りについていて家の中は静まりかえっている。
 「これはチャンス」と日ごろから考えていた計画を実行に移すべく行動を開始した。
 その計画とは夜中のJ神社を覗いてみる事だった。

 寝間着の上にジャージを重ね懐中電灯を持ち、音がしないように玄関を出た。
 晴れてはいたが月も出ていない真っ暗な町内を抜け、静かに神社に向かった。
 5分ほど歩くと神社のある小山のふもとに着いた。
 境内のあたりには灯が見えた。
 その灯を目指し、鳥居をくぐり石段を登る。

 1月は行事が多いため、ひと月の間明かりを灯しているのは知っていたが、境内は思った以上に明るい。
 普段からよく遊びに来ている場所だったが、誰もいない夜中の神社はまるで異世界のようだった。

 まず拝殿に手を合わせ、それから境内の探索を開始した。
 かくれんぼでよく隠れた大木の洞(うろ)…
 昨年の春に野良猫が子どもを産んでいた拝殿の下…
 裏の林からは小動物の立てるかさかさという音…
 次々と回っていき格子の嵌(はま)った小屋の前に出た。

 その小屋は格子で仕切られていて、普段は古い菩薩の木像が2体納められているのだが、なぜか見当たらなかった。
 新しい年を迎えて手入れをしているのだろうと納得し、裏道からふもとへ降りた。

 さて帰ろうと神社を振り返るとちらちら瞬く灯に人影が見える。
 もう一度来た道を登っていくと境内から笛の音がほのかに聞こえた。
 
 拝殿まで戻ってみたが誰もいない。
 ぐるりと一回りしてみたが、誰もいない。

 後ろ髪が引かれるような気がしたが、抜け出したのが見つかると困るのでそのまま神社を後にした。

これが現物の木像です

 翌日、学校から帰るなり祖母にその話をし、二人で神社まで行ってみた。
 小屋の中にはいつものように二体の木像が鎮座していた。

 「本当に昨日の夜は空(から)だったんだよ」
 「昨日は旧正月か…菩薩さんたちも遊んでいたのかもしれないね」
 祖母と二人で手を合わせた。

 それから一年間、家族全員、親戚に至るまで結婚・出産・退院とお祝い事が続いた。
 私も全然勉強していないのにいつも良い点が取れたり、欲しかったものを次々とお土産でもらうなど、嬉しいことばかりだった。
 
 その後、再びの幸運を求めて何度も夜のJ神社に行ってみたが、残念ながら同じ体験はしていない。

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