祖母が語った不思議な話・その捌拾壱(81)「映る」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 「夜中の2時に地下鉄◯◯駅の男子トイレの鏡をのぞくと自分の死に顔が映る」
 大学に入学して2カ月が経った頃、こんな噂を聞いた。

 あまりに話題になっていたので夜中に友人数人と出かけてみた。
 ドキドキしながら駅に着いたが、シャッターが下りていて入れない。
 口々に「残念だなあ」とは言ったが、その実皆ホッとしているようだった。

 一年が過ぎた頃、友人の家で季節外れの怪談会をやった。
 10人くらいが参加し、灯した蝋燭(ろうそく)を消していく本格的なものだった。
 会が進んで行くうち、一人の友人が例の鏡の噂を語った。
 入学したばかりの後輩数人は初めて聞く地元の怪談に興味津々のようだった。

 それから二週間後、会に参加していた後輩のKが部室に訪ねて来た。
 聞くと怪談会の翌日、1年生5人で鏡を見に行ったと言う。
 どうやら駅が閉まる前に構内に隠れて夜中を待ったらしい。

 「鏡…のぞいてみたかい?」
 「はい。みんな見ましたが、普通に映っただけでした」
 「おかしな事はなかったんだ。噂なんてそんなものかもね」
 「一応記念撮影はしたのですが…」
 そう言って1枚の写真を見せてくれた。

 鏡をバックに3人がピースサインをしている。
 肝心の鏡はというと…フラッシュが光って真っ白。


 「これじゃあ鏡に何が映るかは分からないな…あれ? 撮影したのはK君?」
 「はい」
 「じゃあ4人映っているはずなのに…3人しかいないね」
 「自分も最初そう思ったんですが、Mが右端にいるんですよ」

 よく見ると一人だけ離れた位置で笑いながら横を向いて映っていた。
 不思議だったのは体が白く薄く…まるで保護色のように背景のタイルに溶け込んでいることだった。
 「この写真、M君本人に見せた?」
 「いえ…気にするといけないので」
 「うん。見せない方がいいね」

 それから6〜7年後、たまたま地下街でKに出逢った。
 せっかくだからと、お茶を飲みながらあれこれお互いの話をした。

 「そう言えば、妙な写真見せられたことがあったね。あれ、どうした?」
 「覚えておられましたか…お寺さんで焚き上げしてもらいました」
 「えっ、何かあったの?」
 「実は卒業してすぐにMが亡くなったんです。突然死でした。通夜から戻って一緒に遊んだ大学の頃のアルバムを見ていたら、あの写真が挟まっていたんです。ずいぶん色褪せて、映っている友人たちも判別がつかないくらいになっていました。陽に当たっていた訳でもないのに変でしょう? 鳥肌が立ちましたよ。翌日にはお寺に持って行きました」 
 そう言うとKは手を合わせてみせた。

 それから2カ月くらいして実家に戻った時、この話を祖母にしてみた。

 「忌むべき場所だったんだろうね。鏡や写真はそれを映しただけだから焼かなくても悪さはしなかったと思うよ」
 祖母はこう言った後、しかめっ面で付け加えた。
 「あんたもあんまり変な所へ行っちゃだめだよ」

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