映画や配信作品の中から、新作・旧作にかかわらず編集部が「一本取られた」と思った作品を紹介していきます。ぜひ参考にしてください。
今だって十分に幸せ。だけど“ちょっと”思い出しただけ。
◆あらすじ
けがでダンサーの道を諦めた照生とタクシードライバーの彼女・葉の6年間の恋愛模様を、「7月26日」だけでつづっていく。特別な1日だった日もあれば、何気ない日だったこともある。でも決して同じ日は来なくて、世界がコロナ禍以前に戻れないように、二度と戻れない愛おしい日々を終わりから始まりまで丁寧に描いた物語。
ここに一本取られた!
主題歌を務めたクリープハイプの曲「ナイトオンザプラネット」がよく合う映画。ジム・ジャームッシュの同名映画にオマージュされたタクシードライバーの設定も小粋。東京という街の、夜中から明け方にかけての色や空気が画面の向こうから伝わってくる温度感のある、本当にいい映画でした。
主演を務めた池松壮亮さんと伊藤沙莉さんの演技が、あまりにも自然でこれ以上ないほどマッチしていました。本作は私たちの日常に起こる程度のドラマしか起こらず、でもそれが私たちには全て大きな出来事で、その空気感を演出するのにぴったりな配役。
だからこそ見終わった後の余韻が抜けずに、ずっとちょっと寂しい気持ちになってしまいます。“ちょっと”思い出しただけなので、今何か新しいことが起こるわけではないし、終わりから始まりまでを遡って見せる演出は終わりを知っているせいで余計切なくなるのですが、でも“今”、別に悲しいわけでもない、本当にただ思い出しただけなんだよ、という、やわらかい痛みをくれます。
個人的にヒットしたのはお笑いコンビ・ニューヨークの屋敷裕政さんの演技力。こちらもぜひ注目を!