私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

「面白いものを見せようか?」
私が小学校低学年の頃、一緒に散歩していた夕暮れ時に祖母が言った。
「何?」と聞くと祖母は右の手のひらを広げた。
そこにのっていたのは3、4cmくらいの茶色い虫のさなぎだった。

祖母はさなぎの頭を下に向け親指と人差し指ではさむと、私に見せながらこう言った。
「西向け!」
するとさなぎはお尻をグイっと陽が沈みかけている方向に向けるではないか!
「東向け!」と祖母が唱えると、反対に動く!
「やらせて!」…私が真似をしても全然動かない。
「おばあちゃん、すごいな〜虫をあやつれるなんて!」
大変感心して、このことはずっと忘れなかった。

大学生になり夏休みに実家に帰ると、庭にあの日見たのと同じさなぎがいた。
「おばあちゃん、昔このさなぎをあやつったよね」
私の言葉をきくと、祖母は笑い出した。
「あれはね、西向け・東向けって言うのと同時に、はさんだ指に少し力を入れるんだよ。それに反応してさなぎは動いたの。不思議な力と思ったかい?」
そう種明かしをすると、もう一度、祖母は満足そうに笑った。
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