祖母が語った不思議な話・その捌拾捌(88)「T眼科」

私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

大学1年生のGW、実家に帰ったときのこと。
久しぶりに地元の友人Dと夕食を食べ、四方山(よもやま)話で盛り上がった。

「何か変わったことあった?」
「こっちは相も変わらず…ああ、そういえば例のT眼科壊すんだって」
「T眼科ってあの幽霊が出るって有名な廃病院?」
「そうそう。だいぶ前から話が出てたけどずっと残ってたんだよね」
「子どもの頃から噂だったね…何度も前は通ったけど結局行かなかったな」
「そうだ! 明日見に行こうか?」
Dの提案に即賛成した。

翌日、朝から行く約束だったが車を出すDが寝坊したため、出発したのは昼過ぎだった。
1時間ほどF県からO県に抜ける海沿いの道を走ると右手にT眼科が見える…はずだったが無い。
この辺ではと、松林の中の細い道を進むと病院の門柱があった。
なんと2階建てコンクリート造りの建物は既にならされて平地になっていたのだ。

「来るのがちょっと遅かったね」
「せっかく来たんだから、降りてみよう」
Dにうながされて車を降りた。

基礎部分のコンクリートと鉄筋以外は取り壊され、残骸が転がっていた。
あちこちに病院を思い起こさせる器具やカルテらしき破れた紙が散らばっていた。
廃墟になってから中に入り込んだ連中が焼いたと思われる写真も何枚もあった。

「こんなもの見つけた!」
見るとDがなにか光るものを持っている。
手術に使う鉗子の束だった。
「なんだか気持ち悪いね」
「記念だよ。みんなに自慢するんだ」
Dは上機嫌で後ろのシートに放り込むと車を出発させた。

帰りの車中、ある違和感に気付いた。
匂い…車の匂いが変わっているのだ。
焦げたようなきな臭い匂いが鼻を突く。

「変な匂いがしない?」
「さっきから焦げ臭いね。なんだろう?」
窓を全開にしたが帰り着くまで匂いは消えなかった。

それから3カ月後、実家を再び訪ねることになった。
ついでにDに会おうと思い、電話した。
「あれからどう?」
「車売ったよ。匂いは取れないし、妙な事故は続くし…」
“妙な事故”が気になったが話が長くなるから会って話そうということになった。

「おまたせ!」
約束した店で待っているとDがやって来た。
あの焦げ臭い匂いがした。

………………………………………………………

「幽霊って匂いがあるのかな?」
Dと別れ実家に戻ってから祖母に尋ねた。

「妙な音や不思議な光…人は怪異をいろんな違和感として感じ取るからね。匂いもその一つさ」
「経験ある?」
「子どもの頃に寺の裏の横穴に入ったら変な匂いがしてね。急いで外に出たら、その瞬間に穴が崩れたってことがあったね」
「どんな匂いだった?」
「すごく焦げ臭い匂いだったよ」

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