祖母が語った不思議な話・その捌拾玖(89)「化石の池」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

 小学2年生の春…桜も終わろうとする頃、化石を掘ることがちょっとしたブームになった。
 情報交換しているうちに「I池でたくさん掘れるらしい」という噂を聞き込んだ。
 早速その週の土曜日の午後、仲の良い友達2人と出かけた。

 I池は自転車で15分くらいの所にある、直径50mくらいのすり鉢状の池だった。
 着いたときには10人くらいの子どもたちがすでに掘り始めていた。
 池の周囲は赤土で、ずるずると滑り「気をつけなきゃ」と思ったが化石を掘り始めるとそんなことは忘れてしまった。
 噂に違わず貝や木の化石がザクザク掘れる。

 時間も忘れて掘っていたら友人たちがそろそろ帰ろうと言ってきた。
 見ると持って来たバケツいっぱいに化石を掘っていた。
 「魚の化石が欲しいから、もう少しねばるよ」と答えると、「がんばって!」と言葉を残し帰って行った。

 しばらく夢中で掘っていると
 「たくさん掘れたね」と声がした。
 友人が戻ってきたのかと顔を上げたが誰もいない。
 立ち上がって周囲を見渡すと夕陽も沈みかけていて、池からの風が冷たかった。

 急いで帰り支度をしていると、何かにひっかかったような感触があり化石を入れたバケツが地面に落ちた。
 散乱した化石を拾いなおすと、斜面を登った。
 停めていた自転車の荷台にバケツを載せ、服に付いた泥を払っていると、突然バケツが落ちた。
 「また? ついてないな…」
 みるみる暗くなる中、化石を拾い集めると急いで家路に着いた。
 家に着くと妙に体がだるく、夕飯も食べずに寝てしまった。

 翌朝、化石を洗っていると祖母がやってきた。
 「こんなにたくさん、よく掘れたね」
 「池の周りでいっぱい掘れたんだ」
 「どこの池かい?」
 「少し離れたところにあるI池」それを聞くと祖母の表情が曇った。
 「I池…遠いところに行く時は気をつけるんだよ」

 月曜日の朝、突然全校生徒が運動場に集められた。
 何だろうと思っていると校長先生が話し始めた。
 「最近、化石掘りが流行っていてI池に行く生徒が多いと聞きました。あそこはすり鉢のような形状で大変危険なところです。I池に行くのは学校として禁止します」
 せっかくの楽しみを取り上げられたような気がした。

 教室に帰ってからも数人の生徒が不満を訴えた。
 担任の先生は静かに言った。
 「隣町のH小学校の…みんなと同じ学年の子がね、あそこで溺れたの。一人で化石を掘りに行ってね。昨日池の中から見つかったのよ」
 教室はシンとし、誰もひと言もしゃべらなかった。

 家に帰ってから化石を持っているのが怖くなり、祖母に相談した。
 「化石掘りに行ったとき、変なことはなかったかい?」
 「なんか声が聞こえたり、化石を入れたバケツが2回も落ちたよ」
 「そう…よし! 返しに行こう」
 それから祖母と二人でバスに乗りI池まで出かけた。
 池まで来ると化石を水に投げ入れ、途中で買った花を供えた。
 祖母と一緒に手を合わせて帰って来たが、それからは不思議な事は何も起こらなかった。

 それから40年が経った春、ふとI池に立ち寄ってみた。

 池の周りはコンクリートで固められ、桜が植樹され、階段も造られ全然印象が変わっていた。
 見慣れぬ石碑が立っていたので近づくと戦死者の慰霊碑だった。
 I池周辺は酷い空襲で多くの人が犠牲になったと刻まれていた。
 「おばあちゃんはこの事を知っていたんだな…」
 慰霊碑と池に向かって手を合わせた。

 手向けるように桜の花びらが舞った。

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