甘酸っぱい涙の思い出 転校していった男の子、別れの言葉とは

 赤いランドセルの表面を流れ落ちる涙。春は出会いと別れの季節、この時期に色々な思い出をお持ちの方も、いらっしゃるのではないでしょうか。私にもこの時期になると思い出す同級生の男の子との別れがあります。小学校4年生だった私の、甘酸っぱい涙の思い出話です。

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みんなに愛される男の子

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 小学校4年生の頃、私は毎週のように一緒に遊ぶ男の子がいました。日焼けで真っ黒の肌にニカッと真っ白な歯を見せて顔をクシャクシャにして笑うA君は、お母さんと2つ下の妹との3人暮らし。ひょうきんで、学校の先生を真似してからかったりするのに、人懐っこい笑顔と物怖じしない性格でクラスの人気者で、学校の先生からも可愛がられる男の子でした。

 「学校終わったら遊ぼう」A君が声をかけると、近所の公園にはクラスメイトが何人も集まります。缶蹴りや鬼ごっこ、足が速いA君は公園中を走り回って遊びました。運動が苦手な私に
 「座ってな!」と声をかけてくれる、気遣いもできる子でした。
 
 天気が良くない日などは、A君の家にお邪魔することがありました。
 同じ町内で歩いて3分の距離。家に誘ってくれる時は、私1人で行っていました。私の手土産は図書館で借りた本とお菓子。家で遊ぶときはA君の妹も一緒だったので、3人で本やゲームに出てくる面白いキャラクターを見つけては、ゲラゲラ笑っていたことを思い出します。

ホワイトデーにもらった飴のブーケ

 その年のバレンタイン。クラスの女の子たちで仲良しの男の子にチョコを贈ろうという話になり、私もA君に渡しました。初めて男の子に渡すのでドキドキしましたが、A君が目尻にしわを寄せて嬉しそうに
 「ありがとう」と受け取ってくれたのを覚えています。
 
 それから1カ月経った頃、A君の家から帰る途中、追い駆けてきたA君に呼ばれ立ち止まると、A君は何も言わずバッと手を差し出してきました。握られていたのは小さな飴が色とりどりのカラーセロハンで包まれ、ブーケの様になったものでした。私にはなぜA君がそれを差し出しているのか分からず、黙っていると
 「あげるっ!」とA君は大きな声を上げ、飴のブーケを私に押し付けるように渡し、走って行ってしまいました。
 
 家に帰って母に
 「ホワイトデーのお返しもらったのね」と言われ、初めてその意味を理解したのでした。

突然のお別れと止まらない涙

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 それからすぐのこと、担任の先生が帰りの会でA君に前に立つよう言いました。そして先生は
 「A君は明日から遠くへ引っ越すことになりました。突然のことでお別れ会もできず、とても残念です」と言いました。隣に立つA君は口を固く引き結び、真っ赤な顔でじっと前を見ていました。

 そのA君の顔を見ながら、私は涙がボロボロこぼれてきました。次々に溢れる涙は止まらず、思わず机の上のランドセルに顔を伏せました。止まらない涙がランドセルを伝って机の上に落ちていくのをただただ眺めていたのを覚えています。

 帰りの会が終わっても席に座ったままの私のところに、A君は来てくれました。顔を上げた私に、A君は硬い表情と硬い声で
 「ごめん」とだけ言い、私は何の言葉も返せないままA君が帰っていくのを見送りました。

 A君が言った“ごめん”が何の謝罪だったのか、今もわかりません。
 あの時の私はいつまでもいつまでも泣き続けました。今思えばA君のことが私は好きだったのかもしれないと思いますが、その頃の私にはそれに気づくことも出来ませんでした。
 この時期赤いランドセルを見ると、甘酸っぱい気持ちと共に思い出します。

 (ファンファン福岡公式ライター / aki)

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