「医食同源」を基本に、日本料理界で長年培った技術に、医師と栄養士の監修を加えた、ウィズコロナ時代に相応しい会席についてお聞きしました。
海山邸グループ 渡辺康博総料理長
福岡市博多区出身。大阪や京都での料亭修行を経て「吉兆」入社。2017年「春義」創業。パネルサミット(上海)に総料理長として招聘。
木村専太郎クリニック 木村専太郎先生
九州大学医学部卒。同大学第二外科研修後渡米。アイオワ州にて外科開業。帰国後、那珂川病院院長などを務め2001年木村専太郎クリニック開院。
福岡輝栄会病院 管理栄養士 大塚尚直先生
中村学園大学大学院栄養科学研究科卒。管理栄養士初任者臨床研修を終了し、2009年より病院管理栄養士として福岡輝栄会病院に勤務。2013年より現職。
普段の食事をもっと健康的で豊かにするものにするための「モデル」に
渡辺総料理長:「対コロナウイルス免疫向上会席」誕生のきっかけは、やはり新型コロナ禍です。
店を休業せざるを得ない中、「食」で人々の免疫向上に貢献しようと考えるようになりました。
昔ながらの料亭などが廃業・倒産した話を聞き、やりきれない気持ちになると同時に、
調理師としてできることがあるのではないか…という思いに至ったのです。
食に携わる立場から、長年「分子栄養学」を学んでおり、それを活かした日本料理の開発に着手しました。
木村先生: 「分子栄養学」とは、最適な量の栄養素を摂取することで、細胞レベルでの機能向上や、
足りない部分を補う栄養療法です。私も、ビタミンCサプリを毎日4000mg摂取するなどで、
日々体調を整えています。
大塚先生: この会席の重要な目的は、これを食べた方に、普段の食事をもっと健康的で豊かなものにするための
「モデル」を提案することです。一回の会席で体を変えることはできませんが、意識は必ず変わると思います。
渡辺総料理長:そして、五大栄養素であるたんぱく質、脂肪、糖、ビタミン、ミネラルがバランス良く整った、
「免疫向上食」という概念を広く普及させることが、一番重要だと思っています。
この取り組みを、日本中の飲食店で真似していただきたいですね。
基本となる三大栄養素や五大栄養素のバランスが大事
大塚先生: 料理研究の一分野である分子ガストロノミーの技術が用いられ、
おいしさだけでなく栄養素の調理損失にまで気が配られているのはさすがでした。
たとえ時間があっても、これだけ繊細で技術の詰まった料理は、病院では難しいですね。
木村先生: そして、塩を一切使っていないのに、ここまでおいしい。
私が入院した時は、薄味の病院食に辟易していましたよ(笑)。
大塚先生: 当院でも厳しい言葉をいただくことがあります(苦笑)。
この会席は、刺身にも醤油を使わない徹底ぶりなのですよね。
渡辺総料理長:食材を茹でる時にも塩は入れていません。
例えば昆布を28℃に保った場所に一晩並べ、表面に浮いてくるグルタミン酸を刷毛で集めてうまみをとる、
トマトを遠心分離機にかけて甘みを引き出すなど、手間ひまかけているからおいしさには自信があります。
栄養素の効果が最大限発揮できるよう、食材を体に入れる順番にも気を配っています。
大塚先生: 病院食に取り入れるにはハードルが高いですが、衛生基準を順守したうえで、
栄養や風味損失を抑えられる低温調理などを検討してみたいと思いました。
木村先生: まず、お年寄りに食べていただきたいですね。豊富な食物繊維は余分なナトリウムや糖を排出する効果があり、
ビタミンA、C、D、E、そして亜鉛は、免疫力向上が期待できるものの、日本人の多くは亜鉛が足りていない。
これらをバランスよく含み、さらに渡辺総料理長がおいしさを極めたものがこのメニューなのです。
大塚先生: バランスは大事です。極端な糖質制限や、逆に肉断ちをしている人、オリーブオイルをたくさん使うなど、
栄養を気にしている方は多いものの、基本となる三大栄養素や五大栄養素のバランスが崩れていては
本末転倒です。
渡辺総料理長:だからこそ、普段の食を変えていこう、体を整えようという意識の「きっかけ」となる
会席が生まれたのです。
「医食同源」という東洋医学の見地から、自身の免疫力を上げることで身を守り、新型コロナの感染予防に
効果がでるよう、これまで培った技術を通じて社会貢献できればと考えています。