私が小さい頃、明治生まれの祖母はちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
二十歳の夏、私は友人二人とK県の小島に旅行をした。
客船が島に着いたのは夕方だった。
港から10分くらい歩くと、宿泊する△旅館が見えた。
「かなり古い旅館だなあ」「食事も期待できないな」と友人達は、少ない予算で計画を立てたこちらの苦労も知らずに勝手なことを言う。
が、たしかに二階建てのその旅館はかなりくたびれて見えた。
日も暮れてきたのでそそくさと宿泊手続きを済ませると、階段を上ってすぐの「青海波の間」という部屋に案内された。
「こりゃすごい!」
外から見たのとは違って部屋はとても格式があり、友人達は感嘆の声を上げた。
食事は海の幸がふんだんに使われた豪華なものだった。
大浴場も温泉でこそなかったが、広々としていて気持ちが良かった。
「いい宿だね」「お腹がいっぱいだよ」と友人達は掌を返したように満足した様子だった。
床に着くとすぐに二人はいびきをかきはじめた。
「やれやれ、これじゃ眠れないな…」
そう思いながらあれこれ考えていると、ふとある事が気になった。
「外から見たとき二階には窓が四部屋分あったけれど、部屋は三つしかないような…?」
確かめようと二人を起こさないよう気をつけながら廊下に出て、奥に進んでいくとやはり三部屋しかなく、その先はつい立てのようなもので塞がれている。
「?」
気になって眠るどころではないので部屋にとってかえし、懐中電灯を持ってもう一度廊下を進んだ。
つい立ての隙間から照らすとそこには「黄八丈の間」と書かれた部屋があった。
異様だったのは扉が太い木材で十字に打ち付けられている事だった
薄気味悪くなり部屋に帰ったが、なかなか寝付くことができなかった。
翌日、宿を出る時に二階を見ると例の部屋の窓も全て内側から板で塞がれている。
友人達は何も気がついていないようだった。
それから数日間宿で過ごしたが、特にこれといった不思議なこともなく帰宅した。
お土産を渡すと祖母がどこに泊まったかと聞いてきたので「△旅館だ」と答えた。
「まさか△旅館がまだあったとは…黄八丈の間は見たかい?」
「その部屋は塞がれていて使われてなかったよ…でも、なぜ知っているの?」
「私も泊まったことがあってね。その時とても怖い思いをして…今でも忘れられないよ。あんたが泊まるって聞いていたなら止めたのに…それにしても無事で良かった」
眉をひそませながら祖母はそう言った。