祖母が語った不思議な話・その玖拾肆(94)「家移り」

私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

小学一年生の夏、小学校が二つに分かれた。
数年前から校区に100棟を越える製鉄所の社員アパートが建てられ、多くの家族が越して来た結果、生徒数が増えすぎたからだった。
入学してから三カ月、せっかく仲良くなった友達の半数が新しい学校に転校していった。

この話をすると祖母はうなずいた。
「製鉄で働いている人は多いからね。引っ越しか…私たちは家移り(やうつり)って言ってたよ」
「新しいところに移るのはちょっとうらやましいや」
「でもね、良いことばかりとは限らないよ…」
そう言うと不思議な体験を語り始めた。

…………………………………

祖母が十歳の春、親戚のSさん一家が近くの漁村に越して来たので、母とお祝いに出かけた。
Sさんは父母と奥さん、そして娘の五人家族で、祖母は同い歳の娘Mちゃんとは顔見知りだった。
「良い家が見つかったよ。新しくて庭も広いのにとても安く買えたんだ」
Sさんはご機嫌な様子だった。

祖母の脚で四半時(30分)くらいの所だったので自然と行き来し、Mちゃんともすっかり仲良くなった。
浜木綿(ハマユウ)が咲き始めた頃、一人でS家に泊まりに行った。
山村育ちの祖母には海が楽しくて、陽が沈むまでMちゃんと遊んだ。
家に戻ると風呂がわいていたので使わせてもらい夕食となった。
豪華な海の幸と、仕事であちこち廻るSさんが買って来た珍しいお菓子がとてもおいしかった。

「くすくす…ふふふ」
「?」
遊び疲れて早めに寝てしまった祖母は夜中に笑い声で目が覚めた。
どうやら隣りで寝ているMちゃんらしい。
月明かりで見るとMちゃんは眠ったままぶつぶつ独り言をいいながら笑っている。
揺り起こそうかと肩に手をかけたとき、隣りの部屋からうなり声が聞こえた。
そおっと襖(ふすま)を開けてみるとSさん夫婦がそろってうなされている。
廊下を出ておじいさんたちの部屋まで行くと、ここでもうなり声が聞こえる。
祖母は部屋に取って返したが、笑い声とうなり声は朝まで続いた。

朝食を食べ終えた後、少し迷ったが祖母は奥さんに昨夜のことを話した。
「やっぱり! この家に来てから嫌な夢ばかり見て…ひどく疲れるのよ」
青い顔になった奥さんはMちゃんを呼んだ。

「うん見るよ…いつも同じ夢。知らない女の子と庭で鬼ごっこ。もう少しでつかまえられそうになるといなくなるの」
「いなくなるのはどのあたり? 教えて」
Mちゃんは庭に出ると築山の奥にある大きな岩を指差した。
家族全員でてこを使い岩をずらし、そこを掘ってみた。
しばらくすると白いものが頭を出した。
子どもの骨だった。

Sさんはすぐに警察とお寺さんを呼んだ。
やってきたお坊さんはお経をあげ、掘り出した骨は警察が持ち帰った。

…………………………………

「それから何度も泊まったけれど、変なことは起こらなかったよ」

語り終えた祖母に尋ねた。
「その子…見つけてほしかったのかな?」
「夢の中で遊んでもらい、満足したのかもしれないね」
うなずくように庭の向日葵が揺れた。

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