祖母が語った不思議な話・その玖拾漆(97)「いけん」

私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。

イラスト:チョコ太郎

小学三年生の頃、心霊写真が流行った。
書籍はもちろん、テレビでも頻繁に特集が組まれ、番組内の再現ドラマに度々出てくる「金縛り」がクラスで話題となっていた。

「金縛りって夜寝るときになるってテレビで言ってたけど、おばあちゃんは昼間起きているときにネズミの目を見て金縛りにあったんだよね」家に帰って祖母に話しかけた。
「そうそう真っ昼間。本当に動けなかったよ。そうだ、もう一つとても不思議な出来事があるんだけど…聞くかい?」
大きく頷いてみせると、祖母は語り始めた。

……………………………………………

時代が昭和に変わって数年が経った夏、祖母は北部九州に越して来ることになった。
それに先立ち、人づてに紹介してもらった周旋屋に案内され貸家を見て回った。
最初に考えていたK市は人気の高い場所で出物が少なかった。
仕方がないのでD湾を渡ったW市で数軒見たがなかなか良い物件がない。

「そういえばもう一軒だけありました」
周旋屋は思い出したようにそう言うと、料亭が並ぶ賑やかな通りの角にある家に案内した。

「つい先年まで旅館だったので、中は広いですよ。こちらの二階はいかがですか」
その家は二階建てのしっかりとした造りで意匠も凝っていて、聞くと家賃も驚くほど安い。
「私は役場に用がありますので、これで中へ。ゆっくりご覧になってくださいね」
と、周旋屋から鍵を渡された。

翠玉色の扉を開けると靴脱ぎがあり、上がってすぐ右側に階段があった。
扉に鍵を掛けると階段を上った。

二階は日当りもよく、六畳間が二つと四畳半が二つと広さは十分だった。
畳や襖は交換が間に合っていないのか所々色が変わっている。
祖母は腰を下ろすと持って来た帳面に部屋の枠を描き、その中に運び込む物を描きこんでいった。
実際に広さが足りるのかを確かめるためだったが、朝早くから汽車で移動した疲れが出た祖母はいつしか畳に突っ伏して眠ってしまった。

「?」
妙な気配に祖母が目を開けると視界の端に足袋を履いた足と着物の裾がちらりと見えた。
思わず見上げようとしたそのとき
「じっとしちょらんといけんのんで」
と言う小さな声が聞こえ、体が動かせなくなった。

側に立っていた何かはゆっくりと周囲を回りはじめた。
祖母は声の言った通り、顔も上げず息を殺していた。
それが背後に立ったとき、入口の呼び鈴が鳴った。
その瞬間、金縛りが解けた。
見回したが二階には祖母の他には誰もいなかった。
呼び鈴を押したのは戻って来た周旋屋だった。

…………………………………………………

「あそこに住まなくて良かったよ。動いていたのはとても嫌な気配でね…あの声のおかげで助かったんだと思うよ」
「金縛りにあって良かったんだね。でも、その声って誰だったんだろう?」
「それからずっと後に声といい方言といいそっくりな人に会えたよ」
「誰?」
「あなたのお母さん」

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