毎年、梅雨の時期はどうしても憂鬱な気分になります。けれど、近所に住む保育園児の女の子は、雨の日が続く梅雨の季節が待ち遠しくてたまらないんですって。そのわけは…
斜め向かいに引っ越してきた女の子
約1年前、斜め向かいの空き家に新しい方が引っ越してきました。若い夫婦とリリちゃんの3人家族です。
リリちゃんは5歳で、黒髪ショート、色白の丸顔、黒く大きな瞳に長いまつ毛の女の子。
この地域は、多くが夫婦共働きの核家族。町内活動や近所づきあいもみんな必要最低限。
斜め向かいのご夫婦とも、最初に挨拶に来られたとき以来、めったに顔を合わせる機会はありません。
しかしリリちゃんだけは毎週水曜の夕方、わが家の前に登場します。
水曜は保育園を早退してピアノ教室に通っているそうで、レッスン後ママと帰宅するタイミングが、ちょうど私の帰宅時間帯と重なるようです。
そしていつしか、ママが家に入った後もリリちゃんは私の帰りを待ち構え、挨拶してくれるのが習慣になりました。
よく晴れた日の夕方、女の子が身にまとっていたのは…
ある水曜日。私が帰宅すると、リリちゃんは毎週の恒例で、すでにガレージ前に立っていました。
「おかえり!」
「リリちゃん、ありがとう」毎週、私の帰りを満面の笑みで労ってくれる言葉が嬉しくて、私はいつもお礼を言います。
けれどこの日はリリちゃんに「ありがとう」の一言も忘れ、思わず別の言葉が飛び出しました。
「あれ、リリちゃん! どうしたん!? 可愛い!」
その日は晴天でした。夕方のまぶしい西日に照らされたリリちゃんは、透明の生地に赤い音符が散りばめられたレインコートに身を包み、頭を覆うフードには赤いクマの耳。足元は白地に赤と水色の水玉模様のレインシューズ。
大きく開かれたレインボーカラーの傘をくるくると肩の上で回しながら、嬉しそうに私を見つめるリリちゃん。
「なんて可愛いの! 服も靴も傘も。リリちゃん、よく似合ってるね」リリちゃんの大きな瞳がひときわ輝きました。
「いいでしょ。パパが買ってくれたんよ。もうすぐ雨がいっぱい降るからね、そしたらね、これ着てさくら(保育園の名前)行くんよ。でもね、雨がない日は着たらダメって。どうしてもダメってママが。あーあ、着たいな。いっぱい雨降るようにならんかな。一緒にお祈りしてね」
梅雨の季節だって楽しんじゃおう!
パパに買い揃えてもらったばかりのお気に入りのレイングッズ。あいにく水曜日は晴れでした。だけど、斜め向かいのおばちゃんに見せたいから少しだけ着させてって、きっとママにお願いしたのでしょうね。
夕陽の下で私に披露してくれた、あざやかな雨の日コーディネイト。つかの間の可愛らしいファッションショーに、週なかば、仕事帰りの疲れもすっかり吹き飛びました。
夜の天気予報で明日が雨マークだとうんざり。そして朝、曇り空に気持ちがふさぎ、雨の音が聞こえると完全に気分はブルー。仕事以外の外出予定は、雨のために取りやめることもあるくらい。
そんな雨嫌いの私ですが、梅雨の季節を心待ちにしているリリちゃんの様子に、ふと考えさせられました。
この世から雨はなくならない。だったら私も、テンション上がる傘でも買って楽しもうか。なんでも考え方や工夫しだいで楽しく過ごさないと損。
よし、今年の梅雨は、雨が降るたびにリリちゃんの喜ぶ姿を思って私も楽しませてもらおう。そう思いながら、布団のなかで生まれて初めて「明日は雨が降りますように」とお祈りしました。
(ファンファン福岡公式ライター/山ナオミ)