昼食は数十円の駄菓子? やせ細った女の子が見せた優しさとは

 私は小学生の男の子を育てる母です。今まで出会った息子のお友達で、どうしても忘れられない女の子が1人います。笑顔が素敵な彼女は、実は過酷な家庭環境を生き抜いてきたサバイバーでした。女の子と息子との温かな交流を通して、私が彼女から教わった大切なことをご紹介したいと思います。

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毎日同じ服を着た痩せた女の子との出会い

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 次男が小学校に入学した時、1人の女の子のお友達ができました。何人かのお友達と一緒にわが家で宿題やゲームをしに遊びに来ていました。時に
 「いじわるされた」などと不安定に泣いてしまうこともありましたが、気遣いができる優しい子でした。

 でも彼女はいつも匂うのです。洋服は毎日同じものだし、Tシャツやスカートから覗いた手足は細くてガリガリ。おやつを出すと、お友達がゲームしながらのんびり食べる中、彼女だけは真剣な眼差しで瞬く間に平らげてしまうのです。

 ある時、おやつに“すあま”(東日本で食べられる上新粉と砂糖で作ったもち菓子)を出したことがありました。でも昔ながらのおやつは、飽食時代の子どものお口には合わなかった様子。そんな中、女の子はお友達1人1人に
 「もらってもいい?」と尋ねています。
 「いらないからいいよ」と気軽に譲られたすあまを、まさにがっつくという感じで食べていました。

虐待をどうしようもできない現状に…

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 「もしかして放置子?」そう思った私は、さり気なく家の様子を聞いてみました。
 すると水道が止められてお風呂に入れないこと、お母さんが寝てばかりいること、お父さんがよく怒鳴っていること… やはり過酷な家庭環境であることが垣間見えます。でも
 「お父さんとお母さんのことが大好き」だとも言っていました。

 児童相談所に相談しようか… と思いましたが、彼女の家庭については周囲の方はもちろん、学校の先生や自治体もすでに把握しているようです。でも介入が必要とは判断されず、様子を見守られている状態でした。行政支援のスキマに落ちた家庭…。怒りを感じるとともに何もできない自分に虚しさも感じました。

 私にできることは、近所のオバちゃんとして笑顔でおやつを多めに出すことくらいです。女の子は嬉しそうでしたが、決して根本的な解決にはなっていません。焼石に水…。頭の片隅にそんな言葉が浮かんでは消えていきます。

 ある日女の子から
 「うまい棒をもらった」と嬉しそうな様子の息子。詳しく聞くと、彼女は親から渡されたお昼代の数十円でうまい棒を買い、そのうち1本を息子にくれたそうです。厳しい環境の中でも思いやりの心を忘れない女の子を思うと、とても胸が痛みました。

突然のお別れと女の子から学んだこと

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 出会ってから3年ほどたった頃、女の子から突然引っ越すと告白されました。彼女が住んでいる県営団地は格安の賃料なのですが、居住期限が決められています。期限はとっくに過ぎていたようで、ついに退去命令が出たようです。

 悲しそうな表情の息子に見送られながら、女の子は引っ越していきました。
 「もう一緒に遊べないのかなあ」とどっぷりと落ち込む息子。私も何もできなかった悔しさを噛み締めながら、手の届かない行政支援の在り方に未だに疑問を抱き続けています。

 うまい棒を見る度、女の子の愛らしい笑顔とやせ細った手足を思い出します。そして「今、どうしているのかな」と、彼女に思いを馳せます。大変な環境でも優しさと思いやりを忘れなかった、見た目はか細いけれど力強い心の持ち主。そんな彼女から沢山のことを学んだように思います。

(ファンファン福岡公式ライター/日野原花)

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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