私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
「昨夜は薬屋が見たそうだ」
「やっぱり女の子みたいだったらしい」
「これで三晩続いたな」
「狐がばけているのじゃないか?」
「昔から出ると言われている場所だ。きっと亡霊だぞ」
祖母が六歳の冬、村は噂(うわさ)で持ちきりだった。
夜、村はずれの四ツ辻に女の子が出るという。
皆、気味悪がって夜は外に出なくなり、ひと月が過ぎた頃…
「あの女の子なあ…うちの娘なんだ」
朝早く祖母の父親を訪ねてきた上村さんが、いきなり切り出した。
ある朝、十二歳になる娘の足に泥が付いているのに気がついた。
不審に思い寝ずの番をしていると、娘が朦朧(もうろう)と歩き出し家を出た。
ついて行くと四ツ辻まで来てぼおっと立っている。
しばらくすると滑るように家に帰って行った。
翌朝、娘を問いつめたが、本人にはまったく記憶がない。
どうやら夜な夜な家を抜け出し歩き回っているようだ。
「医者には診せたのか?」
「噂になっているし年頃だから、なるべく人に知られたくなくてな」
「う〜ん…」
それから父親と上村さんは出かけて行き、夕方真っ白な装束を着た男の人を連れて帰ってきた。
ぼそぼそと話をしていた三人が家を出たので、祖母はこっそりついて行った。
Uさんの家に着くと白装束の男は庭を二人に掘らせ、小さな壷を埋めた。
そこに向かってしばらく何かを唱えた後、男は帰っていった。
その夜から効果はてきめんで、ぴたりと上村さんの娘さんは歩き回ることがなくなり、いつしか噂も消えていった。
不思議に思った祖母が何をしたのか尋ねると
「見てたのか…あの男は拝み屋さんだよ。相談すると娘の嫌いなものを聞かれたから上村さんが蛇だと答えると、蛇の皮を壷に入れて庭に埋めさせたんだ。こんなに効果があるとは…」
父親は大いに感心しながらそう話してくれたそうだ。