2020年2月にオープンしたスパイスカレーとクラフトビールの店Lille Curry Bar(リル カリー バー)を手掛けるのは、下町情緒が残る博多区・古門戸町にある北欧ビンテージ家具販売とリペアの店Lille Nordic(リル ノルディック)。ビンテージ家具販売店が何故、中央区大手門にカレーとクラフトビールの店をオープンさせたのか?福岡を拠点に活動するライターの山内亜紀子さんがオーナーの山崎さんに話を伺いました。
オープンから5年という節目に家具店とは違う何かを始めたかった
山崎:「北欧ビンテージ家具店Lille Nordicがオープンから5年という節目に全く違ったことをやりたいと思って始めた店が、今回オープンしたスパイスカレーとクラフトビールLille Curry Barです。 僕がビンテージ家具販売とリペアの仕事を始めたきっかけは、大学卒業後に出会った北欧家具との出会いからなんです。 1960年代のデンマークで作られたビンテージ家具は、良質なローズウッドやチーク材を使った最盛期のよいものが生まれていた時代のものなんです。 デンマークはよいものを長く使い、大事にして子どもに伝えていくことを文化にしているので、家具も修理しやすく作られています。 ただビンテージ家具は古いものですので数も少なくなってきていて、どんどん価値が上がっています。 ずっとビンテージ家具を買付けるのは難しいだろうなと思っていたこともあり、家具販売店と並行してうちの家具につながるような、でも今までとは違う何か新しいことをやってみたいと思っていました。」
博多区の下町情緒あふれる・古門戸町で始めた間借りカレー
――山崎さんが新しいことをはじめたいと思っていたちょうどその頃に、家具店の近くにある古門戸ホステルのバーのオーナーと知り合い、一昨年から去年の11月まで1年間、間借りカレーを始めることになります。 山崎:「飲食店のリノベーションや店舗プロデュースをお願いされることも多かったので、うちが空間をつくって飲食をやれたらなぁと思っていました。 1年に1回北欧に買付に行く度に現地のクラフトビールを飲んでいたし、スパイスカレーと合うのでクラフトビールを合わせても面白いなと思ってカレーとクラフトビールの組み合わせを考え、間借りカレーをやらせてもらいました。 そしたら、これが毎回完売するほど、評判を呼んだんです!!」
新店に中央区大手門というエリアを選んだ理由
――間借りカレーで練習し、ある程度集客できたら店舗を出したいと考えていたという山崎さんは、念願だったカレーとクラフトビールの店をオープンすることに。家具店Lille Nordicがある博多区古門戸町と似た雰囲気を持つ中央区大手門エリアを新しい場所として選びます。 山崎:「古門戸町は博多駅から10分ちょっと、大手門も天神駅から同じぐらいの距離で。博多区と中央区の違いはありましたが、どちらも中心地からそれほど離れていないけれど、騒がしさがなくごちゃごちゃしていないんです。 古門戸町も大手門も懐かしさと新しさが共存した街で、その落ち着いた雰囲気が似ていると思います。それに大手門には、いいお店がたくさんあってこれから盛り上がるエリアだと感じていたからです。 このエリアに店を出したいと思い、知り合いに場所を探している話をしていたのですが、大手門のコーヒー屋さんがうちの向かいが空きそうだよとおしえてくれて今の場所がみつかったんです。 周りの店も仲間の店がひとつ増えた扱いをしてくれて、まるで自然にこの街に受け入れられたようにLille Curry Barの場所が決まったことも、僕がいいなと感じた大手門の魅力なのかもしれません。」
スパイスとラム肉ミンチにこだわったキーマカレー
――デンマークで買付のたびに行っていたインド人のカレー屋さんがあり、こんな感じでやれたらいいなと思ったことがLille Curry Barの構想につながっていったそうですが、カレーは完全オリジナルで、間借りカレーの頃から山崎さんのこだわりが詰まっています。 山崎「Lille Curry Barのキーマカレーは、ラム肉の肉感とクセが出るように細かいミンチにゴロゴロ感を出したくて、手作業で1センチ角ぐらいのミンチにしています。 試作を重ねていた時に、細かいミンチがあまりなじまなかったので、より肉の味がしっかり味わえるようにとミンチの大きさもこだわっています。 スパイスは、まずクミン、ブラックマスタードシード、カルダモン、クローブ、アジョワン、ブラックペッパーを加え、仕上げにコチアンダー、クミン、カイエンペッパー、ターメリック、最後にガラムマサラを加え3段階に分けて味を整えています。 けっこう手間と時間がかかっているんですよ(笑)。クラフトビールはデンマークのものやオリジナルのクラフトビールを出しています。」
空間をつくりだすこだわりのカウンターと照明
――Lille Curry Barのこだわりはカレーだけではありません。店内のこだわりはカウンターと照明。メインのカウンターが立ち飲みスタイルになっていますが、これは立ち飲みが人とのつながりがつくりやすいと思ったからなんだとか。 山崎:「カウンターはブラックチェリーで木目も優しくて美しく、皆でオイルを塗って仕上げた自然な風合いは、徐々に変化していくのでこれからだんだん飴色になって味が出ます。 カウンターで立ち飲みしていると、隣で飲んでいる人と話しやすいし、初めて来た人も常連さんも仲良くなれるんじゃないかと思って。
メイン照明はデンマークのビンテージ照明メーカー“ルイス・ポールセン”のものです。このライトは光源が直接見えないように、数学的に光の角度、広がる範囲が計算されています。 実はつくった人が数学者なんですよ。目に不快な光は入らず、やわらかい光が出せる照明です。 飲食店の雰囲気は、家具や照明だけでなく、お客様がそこに加わって作られます。その店に行きたいと思う理由は、雰囲気や料理もあると思いますが、その時その場所で誰と一緒に過ごせるかだと思います。 Lille Curry Barで人と人がつながる空間をつくりたいと思い、カウンターと照明にこだわりました。」
人情に厚く、つながりやすい福岡
――山崎さんは今回、中央区大手門にLille Curry Barをオープンさせた時に感じた、福岡らしさがあるといいます。 山崎:「福岡の街の一番の特徴は、人情に厚くてつながりやすいこと。酒があれば誰でもつながれるような場所だと思います(笑)。美味しい食べ物も多いし、オシャレな人も多く、エネルギーがある人も多いと感じています。 福岡の人って地元愛がすごいので、福岡を好きになってくれる人が好きなんですよ。 いい意味でおせっかいですね。だからLille Curry Barも皆が気にしてくれるし、応援してもらっています。 価値観でつながった人たちに応援してもらえるので、知らないうちにうまくいっていることが多いと思っています。本当に今回のオープンまでの流れも福岡らしいなと思います。」
空間を通して人と人をつなぎたい
――まだオープンしたばかりのLille Curry Barですが、空間を通して人と人がつながる場所として続けていきたいと思っているそうです。 山崎「Lille Curry Barはまだ始まったばかりなので、かしこまらずに皆が楽しめる空間としてファンを増やしていけたらと思っています。 福岡はつながりが多い街なので、いろいろな店舗さんや街の人とつながって面白いイベントができればと考えています。これからが楽しみですね。」 —- ひとつひとつの家具を丁寧にメンテナンスし、お客様に手渡す職人としての山崎さんが始めたビンテージ家具店Lille Nordicと、カレーとクラフトビールの店Lille Curry Barはどちらも心地よい空間をつくりたいという共通の思いから生まれた場所です。 美味しいカレーとクラフトビールと一緒に、山崎さんが手掛けた空間が作り出す素敵な時間を過ごしてみてくださいね。 文=山内 亜紀子
Lille Curry Bar(リル カリー バー)
■福岡市中央区大手門3-1-13 ■営業時間:18:00〜23:00 ■定休日:第1日曜、月曜、火曜 ■席数:カウンター10席、奥にテーブル席あり