新社長が相手に特別なインパクトを与えようと、こだわり抜いて選んだ通販限定缶ジュース。実は、配る社員にもお相手にも不評なことを彼は知らないのです!
社内改革のスタート、合言葉はインパクト!?
私が働く職場では、5年ほど前に社長が交代。その際、様々な改革が実行されました。お中元・お歳暮の習慣もそのひとつ。以前は地元の店で、得意先に宅配依頼していました。毎年お中元はゼリー詰め合わせ。お歳暮は焼菓子詰め合わせ。どちらも、手土産売り場によく並ぶ見慣れたメーカーの定番商品です。
新社長は、紙媒体管理をデータに変更したり、あらゆる面で効率重視の方向にシフトしていきました。ところが、なぜかお中元お歳暮に関してだけは効率度外視。
「業者配達では他社に紛れるので手渡しでインパクトを与える。また、商品もインパクトのあるものに改める」配達先はすべて30キロ圏内、距離的には持参可能。とはいえ得意先25軒を配り回るの!?
定番商品をやめて新しいものへ、インパクトのある商品って何?
お中元の季節になりました。ある朝、新社長が白黒印刷の用紙を皆に配りました。
「今後、こちらをお中元の定番とします」それは、ある地方の小さなサイトで扱っている、通信販売限定の缶ジュース。無添加無農薬、素材本来の甘味を生かした飲料。実店舗には卸しておらず、有名通販サイトにも未掲載で、他社が配るお中元とかぶる可能性はほぼゼロ。
そして数日後、缶ジュースの箱がどんと到着。社員に1本ずつ味見させてくれてもいいのにね。と、コソコソ皆で話しました。
お中元配達スタート、そして私は知ってしまった!
その後、毎年社員2名でお中元お歳暮(お歳暮は地方発の練りようかん)を得意先に配り回るようになりました。ようかんは問題ありませんが、缶ジュースはかさばります。箱を紙袋に入れたままのお渡しは本来なら無作法。しかし紙袋から取り出すには重すぎて、渡される相手も、うわっ重い! と明らかに困り顔だと、配る社員たちは毎年ぼやきます。
ある日、仕事帰りに立ち寄ったスーパーの駐車場で、偶然知人と鉢合わせました。少し立ち話をしたあと、彼女が思い出したように車の後部ドアを開け、中から缶ジュースを3本私に差し出しました。
「これ良かったら。今日仕事で訪れた先でたくさんもらったの」
あら? この缶ジュース…。聞くともらった先は、ひと月前に当社がお中元を配った1軒です。たまたま今日仕事でそこを訪れたら、顔見知りの社員さんから半ば押しつけ気味に渡されたそう。
「毎夏いただくけど味にクセがあるし、スチール製で分別も面倒。だから不評で社員の誰も持って帰らない。暑い中、スーツ姿で重い箱を運んで来られるのも応対が大変。って言ってたよ」
その夜、ほどよく冷やした缶ジュース1本を、夫と半分ずつ試飲してみました。うん、これは健康にはいいのだろうけど、かなり好みが分かれる味だと意見が夫婦一致。特別親しい個人ならともかく、会社という団体には、やはり万人受けする味が無難ですよね。
新社長の言うインパクト。考え方自体は間違っていないと思いますが、少なくとも得意先1軒には、良くないインパクトを与えてしまったようです。そしてあの味は、他の24軒にでも相当好みが分かれるだろうなあ。商品自体も好評ではなく、重い箱をどんと運んで来られるのも応対に困る。うーん、この事実を新社長に伝えるべきか? 自問自答して早や2年。お中元の季節が近づくたびにそっと悩んでしまう私です。
(ファンファン福岡公式ライター/山ナオミ)