「福岡市中央区・春吉ってどんなまち?」みなさんは何をイメージするでしょうか?ここ数年は大規模な夜市にはしご酒イベントを開催するなど、盛り上がりを見せる春吉ですが、なんと『田植えにも参加して米でオリジナルの日本酒を作った』そう。 今回は、福岡のタウン情報誌の編集者として活躍していた、帆足千恵さんが、発起人の友添健二さんと吉野友紀さんにお話をきいています。
福岡の人に「福岡市中央区・春吉ってどんなまち?」ときけば、「天神と博多の間にあり、通な大人が集うこだわりの飲食店があるまち」という答えが多く返ってくるはず!と私は常々思っていました。ここ数年は大規模な夜市にはしご酒イベントを開催するなど、「すごい盛り上がっているなぁ」とウォッチしていたところ、なんと『田植えにも参加して米でオリジナルの日本酒を作った』というではないですか。「どこまでやるのか、春吉」そんな気持ちをおさえきれず、発起人の友添健二さんと吉野友紀さんにお話をきいてみました。
2003年、勝手連として始まった「晴好実行委員会」
はたからみると、楽しいこと、みんなでしたいことは何でも自由にやっているように見えるこの組織。最初のきっかけは、春吉で生まれ育ち、酒屋を営む友添さんが危機感、悩みを周囲に相談したことだったそう。
友添: 「ここで生まれて育ち、自分の子どもができて気づいたのが、“春吉校区には子どもがほとんどいない”ということ。20年近く前の一般的なイメージは“春吉は淫靡な界隈で、怖い、女性は近寄り難いと思われている”ことがあったんですね。 『福岡のヘソ』であり、天神、博多にも歩いていくこともでき、市場や商店が多くあり、こんなにいいまちなのに。もっと良くしたい、よく知ってもらいたいと、東京から帰ってきた同級生のカメラマンや住民、商店主に相談し、意見を出し合いながら、まちの人を巻き込んでやろうと決めてスタート。 春吉をよくしたい勝手連(任意団体)として2003年に「晴好実行委員会」を発足させました。 まずは、2004年に、その当時まだ一般的でなかったホームページを作りました。これは金がないのに情報を届けるにはどうしたらいいかという苦肉の策ですよ。 フリーペーパーでは金がかかるし、情報が陳腐化してしまいそうだったから。一人(一件)1万円を協賛金として、40件くらい集め、なんとかリアルタイムに情報発信を始めました。 ところが、協力してくれたおじちゃんやおばちゃんの商店主たちは当時、ホームページ自体を知らないし、見ることもできない。そこでホームページの画面を印刷して、壁にはって見せて、感謝の気持ちを伝えることができるようにしたのが、2004年10月の第一回『晴好夜市(はるよしよいち)』なんです。ライブやフリーマーケット、屋台などを開催しました。 10数人が月1回会議をして、夜市などのイベントの時は会合を重ねて、その後は酒を飲んで、なんでもやってみよう。やってダメだったらやめようというノリで、いろんなことをやってきましたね。 春吉自慢のローカルグルメを作る試みや、『春吉アートサバイバル』と題して、まちのスポットに芸術作品を展示するアートイベント、職人や住人、店主に話をききながらのまち歩き、人生の達人を招いての講演会『晴好夜学(はるよしやがく)』などなど。 2008年くらいから、住人だけでなく、興味をもってかかわる人、特に女性も増えてきました。みなさんの本気度がすごくて、常に全力投球。本当にまちの雰囲気はずいぶん変わってきましたね。タウン情報誌『シティ情報ふくおか』の表紙になったときはホントに嬉しかった。」
ところで、「晴好(はるよし)」はとても素敵で、コピーライターが書いたかのようなネーミング。どなたが考えられたのですか? 友添: 「明治6年に創設された春吉小学校の歴史をまとめた冊子をみると、数年間「晴好小学校」になっている時期があるんですよ。 春吉を中心に、渡辺通り、清川、西中洲、高砂、薬院、住吉で構成されているので、『晴好』エリアと定義しました。かなり読みにくいので 2019年春にNPO法人にする際は『はるよし』とひらがなにしましたけどね。」
大人が本気で楽しむ「まち」にひかれて
今回、お話をきいたNPO法人はるよしの理事・吉野友紀さんは、実は私(筆者)が勤務していた「シティ情報ふくおか」の同僚でもあり、2014年から数年間は、別な会社で一緒に仕事をしてきました。 夜市など大掛かりなイベント準備に昼夜を問わず、時間をかけて没頭している姿を見るにつけ、「どんだけ楽しいんだろう」と内心不思議に、そしてとても羨ましく思ったこともあったのです。吉野さんをそこまで引きつける「はるよし」の魅力って何なのでしょうか?
吉野: 「2004年のころから、はるよしのホームページのライターや、晴好夜市のお手伝いをしていました。なぜ、やっているのか考えると 『大人になるとコミュニティに参加しにくいけど、ここは“まち”というキーワードで本気で遊べるというか、楽しいことをみんなでやっていくなかで、つながりが生まれる』ということにつきますね。 報酬(対価)がないし、純粋にやりたいことをしながら、人脈もできてます。 晴好夜市の実行委員長を務めさせていただいたこともあります。実行委員会創立当初から続いているイベントで、毎年5月ゴールデンウィークあけに開催。ゆかりのミュージシャンが増えてきて、かかわる人も100人規模、広く市民に認知される地域のお祭りになりました。」 (※残念ながら、今年は5月12日(日)に開催予定でしたが、中止になりました。)
吉野: 「私は裏方で手伝いましたが、演劇も本気でやるんですよ。もともと劇団にいた方がやりたいと発案、まったく経験のない飲食店の方なども参加し、練習を重ねていくのです。2015年に1回目、2020年1月に2回目を演劇専用のホールで行いました。今年の公演『つなぐ』はみていて感動!本当にすごいパワーなんです。」
吉野: 「2017年からの「晴酒(はれざけ)はしご」は、酒が好きなスタッフの発案で始まりました。 チェーン店が少なくて、こだわりの個人経営の飲食店が多いこのエリアならではの企画!飲食店と福岡の蔵元がコラボし、スタンプラリーを楽しみながら、参加店舗で「晴酒セット(お料理1 品・お酒 1 種)500円」をはしご酒できるというもの。2019年は54店舗が参加しました。」 (※2020年は6月に予定されていましたが、中止に。テイクアウト企画「はるよしテイクアウト」をおこなっています。)
酒「晴好」はいかにしてできあがっていったか
私が衝撃を受けた米作りからてがけるオリジナルの日本酒作りは、実は2005年6月に春吉の清酒「晴好の風」を作ったことにヒントを得ているとか。 その当時は、子どもに田植えなど農業体験をさせたいという想いから始まり、佐賀県の酒蔵で作られました。10数年たった今に取り組まれた理由はいかに?
吉野: 「昨年4月にNPOになってから、会員それぞれがプロジェクトとしてやりたいことを提示するようになりました。私は2005年当時の酒作りの田植えに参加して、できあがった酒がとても美味しく、印象的だったオリジナル酒作りのプロジェクトを提案したのです。 もともと福岡は全国有数の酒処で、県内には50を超える蔵元があり、『晴酒はしご』には多くの蔵元さんが協力してくれます。さまざまなジャンルの飲食店があって、食のレベルが高いはるよしに合うお酒を作りたい!と2019年は交渉をして下地を整えるつもりでした。 縁あって、糸島の米農家・濱地さん、うきは市のいそのさわ酒造の高木さんの協力を得ることができたので、まずは試験的にゼロバージョンを作ることにしました。 最初の田植えは20人くらいで、NPOのメンバーで行いました。秋に稲刈りをし、いそのさわ酒造さんに作ってもらって。ろ過前のお酒をみたときは、もう感動でたまりませんでしたね。一般販売用の720ml400本(限定)、飲食店用の一升瓶250本が完成しました。 次回からは本格始動、このプロジェクトに多くの方に参加してもらい、はるよしの活動に興味を持ってもらうきっかけになるようにしたいと考えています。 また、『今後は年ごとに酒蔵を変えて、その年だけの味わいの酒を作る』という発想を持っていますが、業界ではありえないということらしいのです。 しかし、毎年多彩な味わいに触れることで、ファンが増え、福岡の酒蔵さんを盛り上げることにつながると思うのです。次に協力してくれる酒蔵さんを探して、奔走しています。」
プロジェクトの進捗やお知らせはFacebookページで随時アップデートします。ぜひフォローを♪
糸島の田んぼにみんなで田植え。2019年は20数名で行いました。
いそのさわ酒造で高木さんと。酒造りではミニマムの400キロタンク。吉野さんの表情から感動やワクワクが伝わってきます。
ラベルはりもみんなで。
※友添本店でも購入できます
NPO法人 はるよしとしてのこれから
任意団体として、のびのびと、メンバーが全力投球する「晴好実行委員会」から2019年4月NPO法人にした理由は何なのでしょうか。 吉野: 「2018年に、友添さんがひとこと『サステナビリティですたい』っていったことがあって。みんな『なんで知っとうと?』と(笑)」
友添: 「創設から10数年経って、みなさんも年を重ねてくるし、体力的、物理的にも継続、持続可能な組織にしていかないかんと思っていました。当初の目的は達成し、次の段階に入っている。次の方にバトンタッチする明確な方法はなにかと。また、みなさんが本気出してやるのに対価がまったくないので、そのあたりも整理していきたかった」 吉野: 「現在3,000円(年間)の会費をいただいた約30人の方が会員です。来るもの拒まず、去るものは追わず。住人でなくても参加できます。行政が絡んでいなくて、商店街がメインでもない こんなまちづくり組織はあまりきいたことがないです」
—NPO化して一年経ちました。今後はどのようにしたいとお考えですか? 友添: 「(精神的に)若い人たちがいっぱい入ってくる感じにしたいですね」 吉野: 「会員からいろんな案が出ています。案内所がほしい、外国の方にもまちを楽しんでほしいとか。昨年秋の『晴酒はしご』では、外国人の方に日本酒の説明を英語で行ったんですよ。これからも楽しく、本気でやりたいことをやっていきます。みなさんも注目してください。」
NPO法人 はるよしは、地域に何をもたらすのか
「NPO法人はるよし」はありそうでなかった現代のつながりの形をみせてくれていると思います。地域や商店街の人だけでなく、「はるよし」に思いを寄せる人が、その人なりの姿勢でかかわっていくことができるのです。 今はコロナ禍の中でも、地域の飲食店をもりあげるために「はるよしテイクアウト」を行っています。私は福岡市内なので、楽しんで利用しています。 東京や福岡県外にお住まいの方でも、「酒 晴好」を買ってみる、次回行けるときに飲食店をはしごしてみる、日本酒作りに参加してみるなど、「はるよし」に触れてみませんか。 文=帆足 千恵