これまで『.hack』シリーズ、『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズ、『ドラゴンボールZ KAKAROT』など数々の話題作を生みだし、2021年に発売予定のプレイステーション4用鬼殺対戦アクション『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚(メーカー: 株式会社アニプレックス)』の開発を手掛ける福岡のゲーム制作会社、サイバーコネクトツー。今回は、福岡を拠点に活動するライターの山内亜紀子さんが、代表の松山さんに、何故次々に話題作を手掛けることができるのかお話を伺いました。
現在【全集中】で制作しているPS4用鬼殺対戦アクション『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』
ーー2020年10月16日に公開された映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」が、快進撃を続けている『鬼滅の刃』。来年2021年発売予定のプレイステーション4用鬼殺対戦アクション『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚 (きめつのやいば ひのかみけっぷうたん) 』の開発を手掛けるのが福岡のゲーム制作会社、サイバーコネクトツーです。熱狂が続く最高のタイミングでのゲーム発売となりそうですが、作り始めた頃はここまでの熱狂は予想していなかったそうです。
松山: 今年、3月に発表されましたPS4ゲーム『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』は弊社が開発を手掛けています。『鬼滅の刃』が連載が始まった時から、私達でゲーム開発を手掛けたいと思っていました。 昨年のテレビアニメの大ヒットから、年明け、そして映画の熱狂が近づいてきた時に、スタッフがわざわざ“今更なんですけど、『鬼滅の刃』のゲーム開発を手掛けていることを誇りに思います。あと、開発を担当することを獲得した社長を尊敬しています”って改めて言いにきました。よせよ〜って返しましたけど(笑)。 元々、子どもの頃から漫画が好きで、週刊少年ジャンプを43年間一度も欠かすことなく読んできたので、新しい連載が始まるとこれは来るとか、これは合ってないなとか、これこういう息の吹き返し方するんだとか、リアルタイムで見て、感じてきた知識は強いと思っています。 売れるとは思っていましたが、ここまでとは思っていなかったですね。でも、これだけヒットしている作品なので期待に応えるためにも、スタッフは全集中で作ってますよ。
そんな松山さん率いる福岡のゲーム制作会社 サイバーコネクトツーは、どのような成り立ちがあるのか、伺ってみました。
プレイステーション発売のタイミングでゲーム会社起業の誘いを受け、徹底的に業界をマーケティングした日々
ーー今や様々なヒット作を手掛け、日本を代表するゲームクリエイターとなった松山さんですが、子どもの頃の夢は漫画家。最初からゲームクリエイターを目指していたわけではなかったようです。
松山: 将来の夢は“週刊少年ジャンプ”で連載する漫画家になることでしたが、進学した九州産業大学で出会った同級生や先輩から影響を受け、漫画家、映画監督、テレビ制作などやりたいことが増えていました。 その後、先輩や同級生が次々とエンタメ業界へ就職していきましたが、しばらく経つと、東京へ行った先輩や同級生の人たちが次々と地元へ戻ってきている現実を間のあたりにしました。そういった人たちの話を聞くと「あの業界は人間の働く場所じゃない」というようなことを口にしていました。 そのままクリエイティブな仕事につくこともできたのですが、まずは先輩たちが戻ってきている理由はもっとあるはずだ。「俺はもっと社会の常識を知ったほうがいいな」と思い、できるだけ堅い業界がいいと、あえてコンクリート業界に入りました(物理的にもかたいですけど・笑)。 数年コンクリート業界で働いていましたが、プレイステーションが発売された1994年を迎えた頃に、東京のゲーム会社に就職していた、大学の漫画研究会で一緒だった同級生からゲーム制作会社起業の誘いがありました。そこまで意識した業界ではなかったため、声がかかったんだから、ちゃんと業界のことを調べようと思って、まず図書館に通いました。 ゲーム業界の歴史やコンピュータの歴史を読み、週刊ファミ通などありとあらゆるゲーム誌を買ってきて、これまで、そして現在のゲーム業界の知識をインプットしたんです。 当時は、プレイステーションの登場でゲームは2Dから3Dに変わり、業界は一度リセットされているから皆スタート地点は一緒。だったらハンデはないからゼロから努力すれば、下手すれば追いつくどころか追い越せる、ビジネス的にもいけると思いました。 プレイステーションの登場は、ゲーム業界にとっても大きなターニングポイントだったと思います。 また、3Dになったことで様々な演出ができるようになり、漫画、アニメ、映画、バラエティなど、やりたかったことがゲームですべてできると思いました。それで“ゲームは総合エンターテイメントだ、俺はゲームクリエイターになる!”と返事をして、友人たちと一緒に福岡で会社をつくったのが1996年、私が25歳の時です。
仕事をする上での効率だけでなく、生きていく上での効率が大事。だから本社は東京でなく福岡に
ーー今でこそ様々な企業や移住者が福岡に注目し、会社を移すことも珍しくなくなりましたが、松山さん達が会社を立ち上げたのは1996年。まだ企業が地方に目をむけていない時代に、いち早く本社を福岡に構えた理由とは?
松山 起業の話を持ってきた東京のゲーム会社勤務の同級生は、拠点は“東京がいい”と言っていました。でも、なんで東京じゃないとダメなのか?の答えがなかった。だったら皆が集まれる場所と機材、そして仲間が大事なのであって、東京で高い家賃を払って、会社も個人も無理する必要なんかないと思いました。 でも、地方ならどこでもいいというわけではなく、ある種のクオリティ・オブ・ライフ(※)も必要です。我々はアニメを観て、漫画を買い、映画を観ることも大事なので、それができる地方都市であることも必須でした。もうひとつ、市内から空港までの距離も最適でした。博多駅から福岡空港まで地下鉄で6分ぐらいで着いてしまう。この距離感の都市はなかなかありません。だから仕事をする上での効率を考えると、福岡が一番ベストだなと思ったんです。 当時、他の先輩企業がやっていないことをやって勝ちに転じないと、逆転現象なんて起きない。だから福岡であることを利点にやっていこうと決めました。 また、生きていく上での効率も大事だと思っています。例えば福岡では通勤時間が片道平均30分程度、東京だと1時間半。誰にとっても1日は24時間しかないのに、東京だと1日のうち3時間を電車の中で過ごしているんです。その分福岡では、家に帰って漫画を読んだりアニメを観たりゲームで遊んだり、自分の時間を過ごすことができます。これが生きていく上での効率だと思うんです。 現在のゲーム業界は、ひとつのゲームを100人規模で3年かけて作るような業界なので、1日、1週間、1ヶ月の遅れがとんでもない損失になるんです。そうならないためには、皆でコミュニケーションを取り合って、ものを作っていかなければならない。円滑なコミュニケーションを図るためにも、生きていく上での効率もとても大事だと思っています。 今も福岡が一番効率がいいと思っているから福岡にいるだけで、もし福岡以上に効率がいい恵まれた環境があるとなったら、我々はいつでも福岡を飛び出してその街に移転します。でも、25年いるってことは25年変わらず福岡が日本一ですね。
※クオリティ・オブ・ライフ…一般に、ひとりひとりの人生の内容の質や社会的にみた『生活の質』のことを指し、ある人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているか、ということを尺度としてとらえる概念。
時代の変化に合わせて変えてはいけないこと、変えていかなければいけないことがある
ーーこれまでのゲーム業界のハードの歴史は、任天堂のファミリーコンピュータから、SONYのプレイステーション、また任天堂のWiiへ。そしてこの10年はスマホでした。松山さんがこれまでの経験からわかったことは、必ず王座が変わることだそうです。業界は時代と共に変化していくものですが、そんな中でも松山さんがクリエイターとして大事にしていることがあります。
松山: 5年間だけスマホのゲームを作っていたことがあります。私はそもそもスマホのゲームが嫌いで、ソシャゲはクソだと言っていたんですが、ある人にクリエイターなんだったら、本気でやって儲かってからクソだって言ってやめろと言われたんです。 スマホゲームを複数手掛け、売上をあげたもの、そうでなかったものもありましたが、5年間やった上でやっぱり我々には合っていないと感じて作るのをやめました。合っていない理由は、大きく2つありました。 まず一つ目は、私達が映像演出にこだわっていること。小さなスマホの画面では高精細な画を作ったところで楽しんでもらえない。大きなテレビでコントローラーを握って映画を楽しむように今日は1時間だけ、2時間だけと時間を決めて楽しんで欲しいんです。 二つ目は、コントローラーを使った疑似的な体験ができないこと。私達のゲームはアクションゲームが多いのですが、ボタンを押し込むことが気持ちいいんですよ。スマホはたくさんのアイテムを選択して合成したり、指で引っ張って離したりする操作は合いますが、アクションゲームの投げる、蹴る、斬るといった操作とは、相性がよくないなと思いました。 時代の変化は我々の変化でもありますから、その変化は楽しいと思っています。ですが、このスマホの件もそうですが、この10年で時代の変化に合わせ、自分たちの中で変えてはいけないことと、変えていかなければいけないことがはっきりしてきたと感じますね。
お仕事漫画『チェイサーゲーム』が話題。ゲームを軸に漫画、アニメの柱は今後も少しずつ広げていく
ーー時代の変化に合わせ、サイバーコネクトツーも変化をしています。松山さんは、ゲームクリエイターをやる傍ら、漫画原作も手掛けており、「チェイサーゲーム」という漫画を自社で制作しています(11月30日第5巻発売 ※発売: 株式会社KADOKAWA)。ゲーム会社がお届けするお仕事漫画とは?
松山: ゲーム業界を舞台にした漫画です。ゲーム業界に詳しくなくても、仕事している人であれば共感できるお仕事漫画だと思います。締め切りがあって、遅れをどう取り戻すとか、理不尽な要求があったり、複数人の男女が社内にいる以上は社内恋愛の話になったり、結局は僕らもサラリーマンなので仕事あるある系の内容にしています。 本業としてゲーム開発をしながら、漫画制作、アニメ企画など、今はそれぞれのメディアに垣根なんかないと思っているので、面白ければ何でもやろうと思っています。 ゲームが一番多くの人に届くので真ん中に据えてやっていますが、ゲーム開発は時間がかかります。短いスパンで作れて発表できるのが漫画なんです。ゲームと漫画の間がアニメですね。 昔みたいにテレビでなくても、今はネット配信で多くの人にアニメも届けられるようになったので、これからはゲームを中心としつつ、漫画、アニメというこの柱は今後も少しずつ広げていこうと思っています。
—- 松山さん率いるサイバーコネクトツーが次々と話題作を手掛けられるのは、松山さんの徹底したマーケティングと、漫画やゲームに対する熱量と知識があってこそ。ゲームに限らず、常に面白いことを、そしてユーザーとクリエイター、どちらの気持ちも大事にしている松山さんは、これからのエンターテイメントを牽引する新時代の総合クリエイターなのではないでしょうか。 文=山内 亜紀子
松山洋
1970年生まれ、福岡市出身。九州産業大学卒業後、3年間コンクリートメーカーで営業を経験した後、大学時代の同級生から誘いを受け起業、株式会社サイバーコネクトツー代表取締役に。『.hack』シリーズ『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズ、『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』、『ドラゴンボールZ KAKAROT』をはじめとした人気ゲームタイトルのほか、ファミ通.comで連載中のゲーム業界の今がわかる漫画『チェイサーゲーム』の原作も手がけるなど、多彩な才能を発揮する。著書に『熱狂する現場の作り方』他。
株式会社サイバーコネクトツー
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