幼い子どもには、不思議なものが見えることがあると言います。わが家の息子も3歳の頃、大人には姿が見えない「おじさん」に遭遇しました。今回は、お盆の時期に私と息子が体験した不思議な出来事をお話しします。
誰もいない空間に挨拶する息子
8月の暑い日のことです。猛暑日が続いているとはいえ、3歳の息子と家に引きこもってばかりでは気が滅入ってしまいます。西日が沈む頃、私と息子は公園に出かけることにしました。息子は公園で遊ぶと疲れきって徒歩で帰るのをごねるため、自転車を使って公園へ向かいます。マンションの駐輪場で手を繋いで歩いていると、息子が誰もいない場所に向かって
「こんにちは!」と言いました。「え?」と思う私。目をこらしても、そこはコンクリートが敷かれた無人の空間が広がるだけです。
まさか、息子の目には「見えてはいけないもの」が見えているんじゃ…。気になって仕方ないのですが「見えてはいけないもの」を刺激してはならないと思い、無言で通り過ぎました。ドキドキしながら息子を自転車に乗せ、走り出します。
しばらく自転車をこぎ、駐輪場を離れてから息子に聞いてみました。
「さっき挨拶してたのって誰?」
「知らないおじさんだよ」
「そうなんだ。おじさん何してた?」
「わかんないけど、こっち見てた」
知らないおじさんの正体
息子から「目に見えない人」の訴えがあったのはこれが初めてで、背筋が寒くなるのを感じました。しかし、息子の様子は普段と変わらず、怯えたり不思議がったりしていません。おそらく「知らないおじさん」は、私たちに害を及ぼすような存在ではないのでしょう。私は息子に「知らないおじさん」の様子をもう少し尋ねてみます。
「おじさんはどんな顔だった? 怒ってた? 笑ってた?」
「普通の顔だよ」
「ぜんぜん見たことない人かな?」
「うん」
もっと詳しく知りたかったのですが、3歳児の語彙力には限界があります。それに、親が不安がると子どもにも伝わってしまうもの。正体を探るには限界がありました。公園で遊んでいるときも「おじさん」の存在が気になり、帰宅したときの駐輪場では緊張しましたが、息子はもう「おじさん」に遭遇しませんでした。
帰ってきた祖父
「知らないおじさん」の正体に気づいたのは数日後のことです。実家の母からの電話で、お盆の話題になりました。忙しくてすっかり忘れていたのですが、今はお盆の期間。
あれ? そういえば「知らないおじさん」に会った日って…。思い返せば、息子が「おじさん」と遭遇したのは8月13日で、お盆の迎え入れの日。ふと思い浮かんだご先祖様は、私の祖父です。
祖父は優しくて気の利く人でした。共働きの両親を持つ私は、祖父母の家で過ごす機会が多くあり、私の暇そうな様子を見かねた祖父が何度か日帰り旅行へ連れて行ってくれたのです。
祖父は私が結婚する前に亡くなりましたが、ひょっとすると、ひ孫の顔を見に来たのかもしれません。さっそく母に、祖父の写真データを送ってもらいます。息子に
「このおじいさんに会ったことある?」と画像を見せました。息子は
「わかんない」ときょとんとします。たしかに1回すれ違った人の顔なんて覚えられないですよね。
その後も息子から「知らないおじさん」に会ったという訴えはなく、「おじさん」の正体は謎に包まれています。
しかし、もし祖父だったとしたら。私たちを見守ってくれているようで、なんだか心強くて温かい気持ちになるのでした。
(ファンファン福岡公式ライター/芦谷)