私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母が四歳の冬、初めて一人でおばあちゃんの田舎に泊まった。
それはそれは歓迎され、同じ年頃の従姉妹と遊び、用意してくれていた好物のちらし寿司を食べ、一番風呂にも入れてもらった。
夜も更け、広い座敷におばあちゃんと二人で寝ることになった。
祖母のためにランプはつけたままにしてくれた。
座敷には仏壇があり、側に一尺(約33cm)くらいの木彫りの人形が飾ってあった。
それは鬼のような顔で、そこにあるのが不似合いに思えた。
恐ろしく感じた祖母は、あまり見ないようにして布団に入った。
海が近いので、かすかに潮騒(しおさい)が聞こえる。
朝早くに家を出たので疲れていたが、なぜか眠れない。
ふと気になってあの人形を見ると、こちらを見ているような気がしてならない。
祖母は起き上がると人形を反対に向けた。
もう一度布団に入るとすぐに眠りに落ちた。
しばらくすると隣りの部屋から低くうなる声が聞こえてきた。
「何だろう?」と思っているとふすまがゆっくりと開き、大きな顔の女が笑いながらずりずりと部屋に入って来た!
…そんな悪夢に飛び起きると、おばあちゃんが心配そうに見ていた。
「夢を見たのかい?」
「怖い女の人が来る夢を見た!」
それを聞いたおばあちゃんは何か思い当たるような様子で立ち上がり、仏壇の方へ行った。
「やっぱり! この人形を逆さに向けたんだね。これは夢守りさんと言って、悪夢を見ないように守ってくれているんだよ」 そう言うと、くるりと人形を元に戻した。
人形の顔は、最初に見たときよりも優しそうに感じた。
それから祖母は夢も見ずに朝までぐっすりと眠ることができた。
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「夢守りさん、今もあるの?」
昔話を聞き終えて私が尋ねると、祖母は寂しそうに答えた。
「戦争で焼けてしまったよ…残念だねえ」