私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
「今年も終わるね…歳をとると一年があっという間だよ」
二人で障子の張り替えをしているとき、祖母がそうつぶやいた。
古い障子を破りながら「昔も大掃除ってやったの?」と聞くと
「やったよ。年神様を迎えるためだからね。そうだ、私のおじいさんから聞いた話をしてあげようか?」
祖母のおじいさんが若い頃、町のはずれに、たいそう貧しい竹細工師の夫婦が住んでいた。
二人とも気だての良い働き者だったが、なぜかお金が貯まらない。
今年もあと三日となり、このままでは年が越せないと二人で話し合ったが良い考えも出ない。
とりあえず大掃除をしようということになった。
狭い家なので掃除はすぐに終わり、ついでとばかりに辻のお地蔵さんや庚申塚、恵比須・大黒さんの祠(ほこら)も綺麗(きれい)にした。
その夜遅くに知らない老人が訪ねてきた。
「困っているようだから良い事を教えてやる。明晩この前を駕籠(かご)が通る。それをこれで打て。心配する事はないから思い切り打て」
怒ったようにそれだけ言うと老人は出て行った。かたわらには錫杖(しゃくじょう)が残されていた。
次の晩、半信半疑で待っていると足音が聞こえてきて、闇の中から立派な駕籠が現れた。
「これか!」と錫杖を構えたが、どうしても振り下ろせない。
駕籠は目の前を走り去って行ってしまった。
次の日の夕方、再びあの老人が姿を現した。
「お前打たなかったな。今夜、逆の方角から同じ駕籠がくるから今度こそ打て。打たないと命がないと思え」
恐ろしい顔でそう脅すと去っていった。
大晦日(おおみそか)の夜、老人の言った通り逆の方から駕籠がやって来た。
覚悟を決めて目をつぶり、「南無三」と力を込めて打ち下ろした。
「ジャン!」
奇妙な音に目を開けると、そこには人の形に銀貨や瑠璃(るり)、珊瑚(さんご)が散らばっていた。
音を聞いて家の中から出てきた妻と呆然としていると、老人の声が聞こえた。
「担いだ方を打ったか…駕籠なら金だったんだがな。まあこれで年が越せるだろう」
二人は周囲を見回したが、ただ雪がしんしんと降っているだけだった。
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「それからその夫婦はどんどん裕福になり、子どももたくさん産まれたそうだよ」
「おばあちゃん、これが終わったらお地蔵さん磨きに行こうよ!」
それを聞いた祖母は
「正月も来てないのに、あんたはめでたいね」と笑った。