私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
祖母が七歳の年明け、珍しく何日も大雪が降った。
雪合戦をし、雪だるまを作り、ござを敷いて滑るなど、普段とは違う遊びに皆、夢中だった。
夕方になるまで山で遊んでいると雪が激しく降り出した。
だんだん暗くなってきたこともあり、帰ろうとした時
「あそこで誰か呼んでるよ」と幼いN太がぽつんと建つ家を指差した。
皆でその家に近付いてみたが、誰もいない。
「本当にいたんだよ。白い人が手招きしてたんだよ」。N太は納得いかないようだった。
家は半ば崩れていて、人の気配はない。
「きっと、お化けじゃ…はよ逃げんとついて来るぞ」
誰かがそうつぶやいた瞬間、風の音にまぎれて細く笑い声が聞こえた。
全員恐ろしくなり我先にそこから離れようと走り出した。
何かが追いかけてきているような気がして、祖母も必死に村まで走り続けた。
家にたどり着いたが、夕食を食べるときも風呂に入っているときも誰かに見られているような気がしてならない。
雪はさらに激しさを増し、風もびょうびょうと鳴っている。
気味が悪いので祖母は早めに床についた。
「…ちゃん、…ちゃん」
名前を呼ぶ声に起こされた祖母が目を開けると、正月で泊まりに来ていた従姉妹がいた。
「どうしたの?」
「厠(かわや)に行く時に見えたの。庭に誰かいるよ…」
それを聞いた祖母は忍び足で縁側に出た。
ガラスのくもりを指でぬぐい庭を見た…いる…白い女がいる!
ついて来たんだ…
冷水を浴びたような気がした祖母は急いで部屋に戻り、従姉妹と二人布団を被り朝まで過ごした。
翌朝一番、母に昨夜の事を話し一緒に庭へ出てみると、女がいたところに大きなつららが下がっていた。
「見事なもうがんこ(つらら)だね。夜だったから見間違えたんだろう」
母がそう言った瞬間、それは崩れ落ちた。
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「そのときやっぱり笑い声が聞こえたんだよ。お母さんは何も言わなかったけど真っ青な顔をしていたよ」
祖母が語り終わったとき、窓の外に雪がちらつきはじめた。