福岡の経済界に精通する、近藤 益弘さんが、福岡の現在(いま)、そして未来(あした)を多彩なランキングを切り口にしながら、展望していくシリーズです。 病気の子どもを預かってくれる病児・病後児保育の利用者数で、福岡市は20政令市中のトップです。充実した医療環境にある福岡市ですが、新型コロナウイルス対策でも独自の取り組みを打ち出しています。今回は、医療分野での取り組みを追いながら、福岡市の未来を考えてみます。
ご存じですか? 病気の子どもを預かってくれる病児・病後児保育。福岡市は官民一体の取り組みで政令市トップの利用者数
子どもが病気になった時などに仕事を休んで看病をできない親に替わって子どもの世話をしてくれるのが、「病児・病後児保育」事業である。 福岡市の場合、0歳から小学校6年生までの幼児・児童を対象に1日1人あたり2,000円(生活保護世帯・市民税非課税世帯0円、所得税非課税世帯1,000円)で預かってくれる。福岡市内に20政令市で3位となる21カ所の病児・病後児保育施設があり、2018年度の利用者数は、2万9,126人で第1位だった。
21施設(うち1施設は休業中)はすべて福岡市医師会の小児科医院であり、病児・病後児保育における地元医師会の役割は大きい。一般社団法人福岡市医師会の平田泰彦会長は次のように語る。 平田会長: 病児・病後児保育利用者数で首位の福岡市と連携がうまくいっていることに加えて、小児科医が地域から頼りにされる存在であり、子どもたちを地域で診ていくという意識を育んでいる点も大きいと考えています。 福岡市との連携では、新型コロナウイルス対策として全国的に見ても早い時期に開設したPCR検査センターをはじめ、検査の迅速化や移動検査車の投入などで奏功しています。今後予想されるインフルエンザと新型コロナウイルスのダブル流行に対しても福岡市と連携しながら、会員の医師らは献身的に取り組んでいます。
福岡市内の病院・診療所数はコンビニの3倍強、病床の人口比は東京の1.5倍強。西日本で唯一の「こども病院」もある
福岡市は、日本の大都市の中でも上位の医療充実度を誇る。『大都市比較統計年表/2018年』(資料:厚生労働省)によると、福岡市内に1,671の病院・一般診療所があり、人口10万人あたり108.6カ所は全国の20政令都市に東京都区部を加えた21大都市で第6位。福岡市内に544店のコンビニエンスストア(総務省統計局『2016年経済センサス−活動調査:2016年6月調べ』)があり、福岡市内の病院・診療所数はコンビニ店舗数の3倍強である。
これらの医療施設などで働く医師や薬剤師、助産師、看護師・准看護師らの総数は4万5,368人で、人口10万人あたり2,948.5人は第5位である。
一方、病床については、福岡市内の病院・診療所に2万3,365床あり、同人口比1,518.5床は同7位だった。ちなみに東京都区部は同人口比974.3床であり、福岡市が1.5倍強の数字となっている。
全国的にも恵まれた医療環境を持つ福岡市は、岡山県以西の西日本で唯一となる「こども病院」を開設している点も特徴の一つ。2020年に開院40周年を迎えた福岡市立こども病院は、小児高度専門医療・小児救急医療・周産期医療に対応した26の診療科を持ち、ほぼすべての小児周産期疾患をカバーしている。 福岡市における病児・病後児保育の取り組みに加えて、福岡市立こども病院の存在は、子育て世代にとって心強い存在といえそうだ。
福岡市の医療充実を、人材面で支える医療系高等教育機関の存在
なぜ、福岡市は医療面で充実しているのか? この点を考える上で福岡市内および福岡県内における医療系の高等教育機関の存在は見逃せない。医学部を持つ大学は、福岡市内に九州大学と福岡大学の2校。一方、福岡県内に目を転じれば、北九州市に産業医科大学、久留米市に久留米大学があり、県内で4校を数える。また、医学部以外にも看護学部や医療学部などの医療系人材を育成する大学も多く、14大学15学部が福岡県内にキャンパスを構える。 厚生労働省出身で同省医政局政策調整委員を務め、アクセンチュア株式会社公共サービス・医療健康本部マネジング・ディレクターなどを歴任した、武内和久one・福岡株式会社代表取締役は、次のように説明する。
武内代表: 福岡県内に医学部を持つ大学が4校あり、人材と施設の厚みは日本有数で、医療面の充実につながっている。がん研究や基礎研究などで成果を上げている。いきおい、かかりつけ医による地域医療にも定評があります。 政府も福岡県を〝医療大県〟として一目置いています。
福岡市における、新型コロナウイルス対応と今後の取り組み
福岡市は新型コロナウイルス対策では、行政機関によるPCR検査に加えて、福岡市医師会の協力を得てドライブスルー方式によるPCR検査センターを市内に4カ所開設。さらに民間医療機関におけるPCR検査の拡充に向けて、福岡市医師会との一括契約を締結している。
一方、福岡市内のコロナ患者病床の状況を一元的に管理できる病床管理システムも独自に開発するなど機動的に対応。医療機関向けの特別給付金や感染患者入院受入支援金などの独自支援も実施している。 新型コロナウイルスの再流行に対して福岡市は、子どもと高齢者のインフルエンザ予防接種費用の一部助成をはじめ、在宅の要介護高齢者への歯科医師らの派遣による口腔ケアにも取り組む。さらに福岡市では、介護や医療の従事者ら向けにPCR検査を無料で実施していく。 福岡市保健福祉局の中村卓也新型コロナウイルス感染症対策担当部長は、こう話す。
中村部長: 人口当たりのPCR 検査数は他都市に比べて著しく多く、国からも注目されています。福岡市では医療機関と連携しながら検査体制を拡充させると共に、県とも連携しながら軽症者のホテル入所の徹底や迅速化などにも取り組んできました。 福岡市では新たにソフトバンクグループの関連会社と連携して、1日あたり最大2500件のPCR検査を実施することで医療体制のひっ迫を防いでいきます。
福岡市の施策にみる、先進的な医療・健康づくりへの布石
福岡市における医療面での取り組みとして、短期的には新型コロナウイルスの克服であろうが、中長期的には「人生100年時代」への対応がカギを握る。 福岡市では、人生100年時代の到来を踏まえて、《デジタル時代の医療サービスが実現されるまち》を戦略目標の一つに掲げる「福岡市健康先進都市戦略」を策定した。同戦略に基づき、健寿社会の実現に向けて産官学民の〝オール福岡〟で取り組むプロジェクトが「福岡100」である。 「福岡100」では、ICTを活用した「福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム」を開発した。同プラットフォームは、医療情報をはじめ介護情報や検診情報を住民データに〝ヒモづけ〟した画期的な情報システムとして高い評価を得ている。そして、九州大学との包括連携によるデータ分析に基づく医療政策の提言にも活用していく計画である。 また、≪いま、この瞬間≫を大切にする生き方として世界的に注目を集めるマインドフルネスについても、全国の自治体で初めて〝休養・こころ〟の健康づくりとして導入した。福岡市では、「福岡100」として取り組む多彩なアクションプロジェクトの実践を通じて、持続可能な《健寿社会》づくりを目指している。 ウィズコロナ・ポストコロナ時代、首都圏をはじめとする〝中央〟から〝地方〟への人の流れも始まっているという。暮らしやすさに定評があり、食のおいしさでも高い評価を得ている福岡市は、医療をはじめとする〝安心〟面も充実した都市だ。 今後、これらの安心面についても積極的にアピールしていくことは、人々が移り住んでいく上でも重要なセールスポイントになると筆者は考える。 文=近藤 益弘
参考資料・Webサイト
・【FukuokaFacts】子どもが発熱!でも仕事が…。そんな時にも安心です。-病児・病後保育利用者数-。 http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/childcare/ ・大都市比較統計年表/2018年 https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/yokohamashi/tokei-chosa/portal/nenpyo/d-h30.html ・福岡市病児・病後児デイケア事業 https://www.city.fukuoka.lg.jp/kodomo-mirai/shogaijishien/child/byoujibyougojidaycare.html ・福岡市医師会 病児・病後児デイケア事業のご案内 https://www.city.fukuoka.med.or.jp/citizens/childcare/ ・総務省統計局『2016年経済センサス−活動調査』事業所集計 卸売業・小売業 産業編 https://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/tokeichosa/shisei/toukei/kakusyu/keizaisensasu/00002_2.html#oroshi ・福岡100 | 人生100年時代の健寿社会をつくる100のアクション https://100.city.fukuoka.lg.jp