福岡市はいま、海外の金融機関などが集まる「国際金融機能誘致」に動き出しています。 今回は、経済ジャーナリストの神崎 公一郎さんが、福岡の産学官の誘致推進組織の立ち上げなどについて調査しています。
福岡市はいま、海外の金融機関などが集まる「国際金融機能誘致」に動き出しています。背景には、アジアの国際金融センター・香港の政情不安があり、流出する投資マネーや人材の受け皿を狙って政府が旗を振り、東京以外にも大阪や福岡の名前を挙げたからです。福岡も産学官の誘致推進組織を立ち上げるなど素早い動きを見せています。
国際金融に特化したワンストップサポート窓口を開設
ことし(2020年)8月、「政府が(東京に加えて)大阪を中心とする関西圏と福岡を候補地に挙げ、外資金融機関の誘致強化に乗り出す方針を固めたことが分かった」と一部メディアで報道された。 翌9月、福岡市の髙島宗一郎市長は、同市を国際金融都市にするため外資系金融機関の誘致強化に意欲を表明、同月29日には産学官によるオール福岡の推進組織「国際金融機能誘致TEAM FUKUOKA(チーム福岡)」(会長:麻生泰・九州経済連合会会長)が立ち上がった。その動きを加速していくために、10月20日、福岡市は国際金融に特化したワンストップサポート窓口「Global Finance Centre」(GFC:グローバル・ファイナンス・センター)を開設した。
窓口は、旧大名小学校跡地(同市中央区)の創業支援施設「Fukuoka Growth Next(福岡グロースネクスト)」1階のスターアップカフェに置いた。福岡市への進出を検討している外資系金融機関を対象に、金融業に精通した英語・中国語等の堪能なスタッフが無料でサポートする。 福岡市での拠点設立にあたってのビザ取得や補助金等に関する案内、そのほか住宅探しや外国語対応可能な病院の紹介などにも柔軟に対応するという。
香港の政情不安を背景に、政府が国際金融都市確立の旗振り
かつて、国内預金などを原資に内外のプロジェクトに資金提供をしていた東京はロンドン、ニューヨークと並ぶ国際金融都市であったが、バブル経済崩壊後の長引く低迷に加え、税制や英語対応の環境が整う香港やシンガポール、上海に後れを取るようになった。 しかし、ことし6月、香港国家安全維持法が施行され、自由な経済活動への影響を懸念する金融関係者が香港から流出する可能性が指摘され、風向きが変わった。 政府は7月、経済財政運営の基本方針「骨太の方針」に、「世界・アジアの国際金融ハブとしての国際金融都市の確立を目指す」と明記した。そして、既に国際金融都市に向けて歩みを進めていた東京に拠点をつくろうという中で、都市機能の分散も視野に、大阪とともに福岡の名前が挙がったというわけだ。 しかし、国際金融都市としての日本の都市の評価が突出しているわけではない。国際金融都市として世界的な地位を示す代表的な指標として、イギリスのシンクタンクであるZ/Yenグループが毎年2回(3月・9月)取りまとめている「国際金融センターインデックス(GFCI)」(注1)がある。 (注1)金融関連の主要な定量データと金融市場関係者に対するアンケート調査の結果を指数化し、全体および要素別に世界111都市をランキングしたもの。 東京は世界4位につけるが、税率の高さや金融セクターの発展度、言葉の壁などによる暮らしにくさが課題と指摘されている。ニューヨーク、ロンドンと3位の上海以下との間には明確な差があり、大阪は39位、福岡に至っては圏外である。
本気度が政府に伝わるように素早い対応を見せた福岡市
髙島市長は「TEAM FUKUOKA」を設立した当日のブログに、「今回、政府から出てきた候補地として、福岡市はそのポテンシャルを最大限生かすべく、チーム福岡を結成しました。ハードルが高いのは百も承知。でも、成功の反対は失敗ではなく、挑戦しないこと!チャレンジからしか生まれない!」と決意のほどを書き込んだ。
福岡市の素早い対応は、国際金融機能誘致の本気度を政府に対し見えるように伝えるのが狙いでもあった。「TEAM FUKUOKA」の事務局を務める福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長の石丸修平さんは、こう話す。 石丸さん: 「金融都市としての福岡の知名度は低い。どのような金融都市を目指すのか、そのための旗を立てたい。」
福岡市はこれまでスターアップ都市として、国家戦略特区を活用して起業とその成長を応援する枠組みをつくってきた。「TEAM FUKUOKA」の設立趣意書には「外資系金融機関・人材が有する経営管理上のノウハウや技術、情報など優れた経営資源が加わることで、地域経済のより一層の活性化、生産性の向上、国際化などが期待されるとともに、福岡が日本経済をけん引する役割を担っていくことになるものと考えます」とある。 スタートアップ企業サポートの枠組みで、外資系金融機関やファンドの存在は、その情報やノウハウの活用、資金調達の選択肢が広がるなどのメリットのほか、さらなる外資系企業の福岡進出の呼び水となる可能性もある。
生活環境の良さで、仕事や生活に対する向き合い方も設計
一般的な国際金融都市のイメージは、世界的に事業を展開する銀行や証券会社、保険会社、投資ファンドなどが拠点を構え、法律事務所や監査法人など幅広い関連業種も集中する。東京はそこでの地位向上を目指し、大阪はデリバティブ(金融派生商品)と商品先物を一元的に取引する大阪取引所があるのが強み。 金融の世界も「Fin Tech」(フィンテック)(注2)で、仮想通貨やクラウドファンディングなど新しいサービスが次々に登場している。 (注2)金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語。金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指す。インターネットやスマートフォン、AI(人工知能)、ビッグデータなどを活用したサービスを提供する新しい金融ベンチャーが次々と登場している。
石丸さん: 「福岡は東京や大阪とは違う金融の世界で、第3極の新しいモデルになりたい。福岡の産業の機能性、生産性の向上やレベルアップ、スタートアップ企業の課題解決など親和性のある事業を手掛け、福岡に資する金融を確立したいと考えています。」 「TEAM FUKUOKA」では、金融機関のシンクタンクなどから講師を招いて、国際金融都市をめぐる環境の変化などについての勉強会を重ね、国の動きを見ながら何ができるか、福岡が目指す方向性を定めることにしている。 特に、福岡と規模が変わらないオーストラリアのメルボルン(国際金融センターランキング27位)、カナダのトロント(同31位)などについて研究し、可能性を探っている。 世界の主要国では、複数の金融都市を備えているのが一般的である。自然災害のリスクや今回のコロナ禍で仕事や生活スタイルが見直され、東京一極集中のリスクも高まっている。
石丸さん: 「金融の関係者も生活環境の良さを求める割合がアップしています。満員電車で通勤するようなことはしないで、住みやすさや楽しめる場所が重要なファクターになっています。福岡ならではの仕事や生活に対する向き合い方を設計することも重要です。」 福岡には、国際ビジネス拠点誘致の経験とノウハウがほとんどない。これまで指摘されてきたオフィスや自宅の賃貸借契約、会社の設立、子どもの学校、医療など、英語でのビジネス、生活環境の向上が求められている。法人税や所得税など税問題などは国に任せ、福岡ならではの誘致スタイルの実現こそが望まれる。 加えて、福岡の地理的優位性から言って、世界第2位の経済大国である中国との向き合い方がある。中国は政治的には難しい面もあるが、人民元の国際化を進めていることから、今後、人民元の比重が高くなる可能性が強い。福岡マーケットにどう取り込めるかも重要なポイントとなると筆者は考える。 文=神崎 公一郎