コロナ禍で世の中に不透明感が漂っていますが、福岡市はビル建て替え時に、感染症対策を新たな容積評価の対象とし、対策を実施するビル計画の天神ビッグバンボーナスの竣工期限を2026年12月まで延長しました。今回は、経済ジャーナリストの神崎 公一郎さんが、いち早く感染症対応シティにチャレンジし、国際競争力が高く安全・安心で魅力的なまちづくりに取り組む官民を代表して、お二方に話しを伺いました。
感染症対応シティへ! ~より国際競争力が高く,選ばれるまちを目指して~
福岡市住宅都市局都心創生部長 宮本 章信さんに聞く!
――市役所のすぐそばで、天神ビッグバンボーナス認定第1号である「天神ビジネスセンター」の建設も進み、日々鉄骨が組み上っています。2015年2月から、「天神ビッグバン」がスタートし、その後、エリア内で4地区の整備計画が決定されました。また個別ビルの建替え計画も次々と発表されています。現況をどのように見ておられますか? 宮本部長: 「市独自の容積率緩和制度を2008年に創設し、その後、航空法高さ制限の特例承認を契機として天神ビッグバンを始動しました。これまでのまちづくりにおいて、MDC(天神明治通り街づくり協議会)をはじめ、地域の皆さんと一緒に取り組んできたことが、ビルの建替え計画が次々と進められている現在の状況につながっていると思っています。 今年は新型コロナウイルス感染症が流行してしまい、民間事業者の方々も今後の福岡市のまちづくりの方向性について気にされているのではないかと感じていました。今後は感染症時代に対応した安全・安心なまちづくりが重要になってきます。 建て替え計画が次々と進められているこのタイミングを捉えて、感染症対応の機能をビルに組み込み、一気にまちを生まれ変わらせる取り組みとして、感染症対応シティの発表をさせていただきました。 これは、これまでのまちづくりで取り組んでいた建て替えによる耐震化やオープンスペースの創出・活用などに加え、ビルにおける感染症対策として、換気・非接触・身体的距離の確保・通信環境の充実などの取り組みを誘導していくものです。 具体的な制度については、感染症対策を容積率緩和の評価対象に加え、対策を実施するビル計画については天神ビッグバンボーナス(注1)の竣工期限を2026年12月末まで、2年延長できるようにしました。 官民が一体となって感染症対策に取り組むことで、国際競争力の高い安全・安心なまちに生まれ変わり、国内外から人や企業に来ていただけるのではないかと考えています。 天神ビッグバンについては、新たな空間と雇用を創出するプロジェクトとして進めており、感染症対応シティの取り組みはその点にもつながると考えています」
「天神ビッグバン」エリアの主な建替え計画の状況
(注1)福岡市都心部機能更新誘導方策で、「国際競争力・感染症対応」「環境」「魅力」「安全・安心」「共働」の5つのテーマをまちづくり取り組みの評価項目として、その貢献度に応じて最大400%の容積率を加算できる。天神ビッグバンエリア内で、魅力あるデザイン性に優れたビルについては、さらに容積率最大50%のインセンティブを獲得可能。
――天神一丁目地区にまちづくりの動きがあるようですね。都市計画決定されれば、天神一・二丁目の新たな地区計画が追加されることとなりますが。 宮本部長: 「先行する地区と同じように、都心部の機能強化や立体的な歩行者ネットワークの創出などをまちづくりの目標とするとともに、広場や通路の設置など具体的なまちづくりのルール(地区整備計画)を定める地区計画について手続きを進めているところです。 ビルの建て替えにあたっては、感染症対応の視点も計画に盛り込まれるものと考えております」
天神一丁目地区整備計画
――「天神ビッグバン」がこれからさらに具体的になっていくわけですが、2024年のプロジェクト完結後の景観イメージについて、どのように描いておられますか? 宮本部長: 「天神ビッグバンボーナスの認定にあたっては、①建物低層部・公開空地も含めたデザイン性の高いビル②周辺ビルとの連続性を意識した建物デザイン③まちに潤いを与える木陰や花、目に映える緑化の推進④ユニバーサルデザインへの配慮ーーを要件としています。 インバウンドや若者だけでなく、小さいお子様連れや高齢の方にも繰り返し来てもらえるようなまちづくりが必要だと考えています。景観的なデザイン性に加えて、セットバックとあわせた賑わい空間の設置や、公共的なゆとり空間、休憩スペースの創出などユニバーサルデザインの考え方も重要です。 また、MDCにおいては、落ち着きと品格のビジネスストリートをテーマに、連続する壁面・2~3階の水平分節・建物低層部の可視化・夜間照明についてデザインコードを定めて、ビルの建て替えにあわせて景観形成の取り組みをされています。 航空法の高さ制限の特例承認によって、現状よりも高いビルになるかもしれませんが、その圧迫感を低減するための取り組みとして、明治通り沿道については高さ76m以上の部分を5mセットバックすることをルール化されております。 官民が連携して、景観形成やゆとりある公共空間の創出に取り組んでいくことで、魅力あふれるまちにしていく工夫を行っております」
クリエイティブな人が集まるように、天神全体で価値を高めるきっかけにしたい
西日本鉄道株式会社 常務執行役員 天神開発本部長兼福ビル街区開発部長 田川 真司さんに聞く!
――福ビルの解体工事を毎日見ていますが、あっという間に地上部分がなくなっています。スケジュールは予定通りですか? 田川本部長: 「来年度2021年度に着工し、2024年春の完成予定でしたが、『感染症対応シティ』に向けた感染症対策をはじめとする計画変更により、完成は2024年12月頃になりそうです。ただ、福ビルと天神コアビルが先行する計画が、天神第一名店ビル(ビブレ)との3棟一体開発になりましたので、設計の自由度が上がり、効率性がぐっと良くなりました。コロナ対策に加え、BCP対応の強化や環境に配慮した取り組みを行い、外資系企業の誘致につなげたいと考えています」
――福岡市が、容積率の緩和制度に新型コロナウイルスをはじめ感染症への対策を新たに適用条件に加え、「天神ビッグバン」に関しては、感染症対策を前提に適用期限を2年間延長しました。 田川本部長: 「今年9月に開業したばかりの『東京ポートシティ竹芝』オフィスタワーのコロナ対応を視察するなどして、検討を重ねています。入館する自動ゲートの前に大人数の検温ができるカメラセンサーを備え、自動ゲートでは顔認証で本人の職場を確認、自動的にエレベーターで指定されたフロアに案内していました。その間、タッチレスですね。 このような非接触に加え、機械換気の増強や自然換気の導入といった換気、エレベーターの大型化・台数追加といった身体的距離の確保、ICTを活用した通信環境の充実、空気清浄、抗菌素材の活用などの導入を検討しているところです」 ――Withコロナ、Postコロナ時代のオフィスのあり方については、極端にはテレワークによるオフィス不要論、東京からの地方分散に対し、「三密」対策に伴うスペースの確保など、いろんなことが言われています。 田川本部長: 「企業の方がおっしゃるのは、社員が社外の人との交流する中で、新しいアイデアが生まれ、ビジネスを実現してきたから成長してきたということで、コミュニケーションの大切さを再認識させられました。 開発コンセプトは、創造交差点ですから、訪れる人が交わることで新しいビジネス・文化を生み出していこうということです。 ビルのサイズ感は、GINZA SIX(銀座シックス)並みで、福岡市最大の19階建てビルとなります。デザイン的な面もありますが、やはりコンテンツが重要で、MDCで掲げたところの集客・交流・創造という機能をビルに取り込んで、クリエイティブな人を呼び込み、高付加価値の事業を生み出していかないと都市の成長は描けません」
――その空間が新ビルの6~7階に予定されているスカイロビーですね。 田川本部長: 「スカイロビーは、企業の人たち同士が話したり、スタートアップ企業の人たちが交流したり、カンファレンスやシェアオフィスなど多目的なスペースとして計画しています。 本社にはあるけど支社にはないような、新しい商品やサービスを発表するときに演出できるプレゼンルーム、多目的な文化ホール、バンケット的なものなどが考えられます」 ――福ビル街区の建て替えプロジェクトは、エリアの顔として”天神交差点のランドマーク”となるのでしょうが、どのような将来イメージを描いておられますか? 田川本部長: 「今、香港に代わる国際金融都市の形成を目指す機運が高まっていますが、福岡に来てくれるような環境整備が必要です。クリエイティブな人がやってきて文化、エンターテイメントなど楽しめる街にしなければなりません。 併せて、地元で就職先が限られていることから、優秀な人材、特に理系の人たちが九州から流出しているのが福岡の損失です。理系の人たちが力を発揮できる研究機関や企業を呼び込むことが重要で、産官学が連携協力する共創空間が必要です。 福岡に拠点があることで、企業家、研究者、学生が定期的に集まって交流する中から、起業したり、失敗しても大手企業に就職するなどの循環を生みだしたいですね。 福ビル街区プロジェクトをそういった、まち全体で価値を高めるきっかけにしたいと考えています」 文=神崎 公一郎