天神ビッグバンの「西のゲート」(旧大名小学校跡地)の開発が始まっています。2023年春までのオープンを目指す開発のシンボルは、「ザ・リッツ・カールトン」とハイグレードオフィスが入る25階建ての高層ビル。世界最高峰の5つ星ホテルは、天神の街にどのような新たな風を吹き込むのでしょうか? 今回は、経済ジャーナリストの神崎 公一郎さんが、天神ビッグバンの「西のゲート」の開発について調査しています。
「天神ビッグバン」で先行して、東のゲート「水上公園」がオープンしている
「東のゲート」である水上公園は、天神(中央区)の東の端にあたり、西日本一の繁華街・中洲(博多区)と天神とを隔てる那珂川と薬院新川が合流する地点の剣先に位置する。 福岡市が所有するこの公園敷地を、西日本鉄道株式会社が代表の運営会社(特別目的会社、SPC)が借り受けて運営するコンセッション方式で、2016年7月にリニューアルし、水辺のロケーションの魅力を生かしたレストラン施設「SHIP’S GARDEN」がオープンした。 限られた敷地の中で空間を有効に使うため、「SHIP’S GARDEN」の屋根上部分は公園と一体的に利用できるウッドデッキ空間とし、都心の新しい憩いのスポットとして利用されている。 「SHIP’S GARDEN」の1階は、シドニー発のオールデイカジュアルダイニング「bills福岡」、2階には中華の名店「星期采」が入居している。
西のゲートに位置する、「旧大名小学校跡地」の開発が始まった
福岡市が「西のゲート」と位置付けているのが、旧大名小学校跡地(約1万1,800㎡)である。同跡地は、地域活動や災害時の避難場所としての役割を担う場所であるとともに、天神地区に隣接し都心部の機能強化と魅力づくりを図るうえで重要な役割を担う。 2016年3月、まちづくりの基本的な考え方を示す「旧大名小学校跡地まちづくり構想」を策定し、翌2017年3月にまちづくりのコンセプトや土地利用、事業手法、地区計画の方向性などの考え方を「旧大名小学校跡地活用プラン」としてまとめた。土地の所有形態は貸付とし、借地期間終了後に土地が返還される一般定期借地権を設定、借地期間は70年である。 実現に向けたまちづくりの方向性として、次の3項目を掲げている。 ① 地域特性を活かした歴史や文化、緑、賑わいをつなぐ場の創出 ② 多様な人材・企業が集まり交流する新たな価値を生み出す場の創出 ③ 都市ブランドを高める高質で魅力的な場の創出 福岡市は2017年10月、この跡地活用に向けた事業者を公募し、2018年3月に優先交渉権者として、積水ハウス株式会社を代表者とするグループを選定した。2019年7月、同社を代表企業とする大名プロジェクト特定目的会社【注1】が設立され、同年12月に着工した。 【注1】積水ハウス株式会社に、西日本鉄道株式会社、西部瓦斯株式会社、株式会社西日本新聞社、福岡商事株式会社を加えた5社が参加
東のゲート「水上公園」と西のゲート「旧大名小学校跡地」の位置
グロ-バル創業都市の新たな拠点は、『ガーデンスクエア』
事業者は基本方針として、「国内外のチャレンジャーと企業が集い、新しい価値を生み成長するグロ-バル創業都市の新たな拠点『ガーデンスクエア』」づくりを目指し、以下の4項目を掲げている。 ① 天神ビッグバンのシンボル=世界最高級ホテルの誘致 ② 福岡成長のシンボル=ハイグレードオフィスの整備 ③ スタートアップのシンボル=厚みのある創業支援・人材育成環境の整備 ④ クロスカルチャーのシンボル=世界や地域との多様な交流拠点の整備 計画では、北側に25階建てオフィス・ホテル棟(高さ約111m)、西側に公共施設などが入る11階建てコミュニティ棟を整備する。
ホテルは、マリオット・インターナショナル(米国)【注2】が展開する高級ホテルブランド「ザ・リッツ・カールトン」。由緒ある建物を利用したり、新規の高層ビルにテナントとして入居する方法をよく取っている。日本では7番目となり、2023年春の開業を目指している。 客室はすべて50㎡以上の162室、最上階のルーフトップバーをはじめ6つのレストランバー、ビジネス向けの会議室やボールルーム、室内プールやジムの「ザ・リッツ・カールトン スパ」などを備える。(2019年7月8日時点) 【注2】建物を所有する投資家や外部企業と運営契約を結ぶ手法で展開するホテル運営の多国籍企業。世界131の国・地域に30のブランド、7,000を超えるホテル・リゾートを擁する。 オフィスは、総面積約3万㎡、ワンフロアの最大貸し付け面積を約2,500㎡に設定した。高度なセキュリティ機能やBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)性能、耐震性を備えたハイグレードオフィス。1・2階は日本初、福岡初進出の商業店舗を誘致する。 コミュニティ棟は、公民館や保育施設、旧大名小学校南校舎のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」と連携した創業支援・人材育成施設、グロ-バル企業で働く人向けの国際水準のレジデンス(住宅)で構成。約3,000㎡の広場も整備し、災害時の避難場所のほかお祭りや文化行事、イベントホールとの一体的利用による賑わいや交流の拠点とする。
5つ星ホテル「ザ・リッツ・カールトン」がやってくる。
事業者公募において、福岡市は国際的な観光・MICE【注3】都市にふさわしい高い品質と品格を備え、ゆとりのある客室を持ったホテルの導入が望ましいとしていた。 【注3】Meeting(会議)、Incentive tour(報奨旅行)、Convention(大会・国際会議)、Exhibition(展示会)というビジネスイベントの頭文字をとった造語で、ビジネストラベルの一形態。 「『ザ・リッツ・カールトン福岡』が地域の活性化に貢献するだろうと、私たちは業界としても期待している」と話すのは、株式会社ニューオータニ九州の山本圭介社長。福岡が世界のグローバルシティに生まれ変わるためには、欧米系のブランドが必要だと言う。 山本社長: 「なぜ、リッツかと言うと、世界最高峰のハイグレードなホテルで、世界の主要都市に進出し、その地域のブランドを創出します。 世界最高峰のブランド力のあるホテルを誘致することによって、必然的に顧客である欧米系の富裕層を福岡に呼ぶことができます。福岡・九州に足りない欧米系のインバウンド、ロングステイのお客さんを呼ぶことができるのです。」 マリオット・インターナショナルグループの会員数は約1億人にのぼり、宿泊者の半数は会員で占めると言われている。 山本社長: 「”福岡にリッツがあるから行こうよ”という世界の富裕層が必ずいらっしゃる。我々が努力してもできないものが、リッツ自ら需要を喚起してくれます。 新型コロナが収束しているとみられる2023年に開業するというのは、ちょうど良いタイミングだと思います。」 1978年9月、渡辺通1丁目の再開発で福岡市と九州電力の要請で「ホテルニューオータニ博多」が開業したように、山本社長は「ホテルは街を創る」使命感があると語る。
天神ビッグバンで新たなオフィスビルや商業施設が生まれ、世界一のブランド力のあるホテルが生まれ、街並みが変わっていく。福岡のまちがこれから、どのような国際都市に変貌していくのか、想像するだけでも期待は膨らむ。 文=神崎 公一郎