すいませんねえ。僕からのM-1決勝に残ったよ。という電話を受けて号泣するためのイメージトレーニング、今年も、無駄に終わりました。 もうM-1の事は忘れて下さい。 その点、お宅はすごいよ。僕が長年、全然通過できないでいたR1グランプリ(一人でするネタの大会)。 その時、あんたはこう言いました。 「ねえ、いっつも一回戦で落ちようけど、R1グランプリってそんな難しいと?一回戦位簡単やろ?一回戦位なら誰でも通るやろ。逆に一回戦位で落ちるって何なん?どうやったら一回戦位で落ちると?一回戦位は、アマチュアも一緒やろ?一回戦位は、声が大きかったら通るやろ?一回戦位って、」 僕は叫びました。 「何回、一回戦位って言うとか!でなんか、その位って!完全に一回戦で落ちとう事を見下しとうやないか!位いらんやろ!」と、心の中で。「えっ?そんな難しい事なん?私でも通るやろ。」なめんなよ。おいおい、プロでも何人も落ちようのによお。俺の大好きなポテト少年団もみんな落ちようとぞ。(最近解散したトリオで、明るく楽しい漫才で、個人的に大好きでした。) 「私受けよっかな。R1グランプリがどの程度か見てみたい。」「受かる訳無いやろ。素人が考える程甘くないんよ。」 これは声に出して伝えました。今までそういうコンテストで見てきたのです。アマチュアの方が、場の空気に完全に飲まれて、声が小さくて聞こえない。ネタを忘れるなど。がっかりして舞台を降りてくる人達を。
出た、完全に素人です。家族から面白いって言われた位で通るかい!舞台を舐めとうな。一回、人前に立ったら分かるわい。どれだけ大変か。そう思いつつ、この話は終わったような気がします。 ただ、僕の中では、終わった話でしたが、実は終わってなかったのです。 2、3週間が過ぎた頃でしょうか。「今度の日曜日、友達とご飯に行くけん、タケ見よって。」 そして、当日、君は、僕に息子を預けて、家を出て行きました。 夕方、君は、戻ってきました。 「お帰り。どうやった?」「いやあ、緊張したあ。」「緊張?楽しかったと?」「楽しいどころじゃないよ。ずっと緊張よ。終わってみれば、楽しいけど。」「意味分からん。知り合いの人と会って来たんやないと?」「うん、テレビで見た事ある人はおった。」「えっ?どこに行ったと?」「R1。」あっ?R1って店の名前か?あのR1か? 緊張?ずっと緊張?「はっ!R1ってあのR1?」「うん。たった2分なのにヘトヘトよ。」えーっ!出とうやん!「どうやった?」「いや、緊張したけど、普段通りやれたよ。」 それ、プロのセリフや。普段通りって、舞台なんか出た事ないやろ。「最初で笑い来たら落ち着いたね。」だけん、プロのセリフや。「後は、後ろのお客さんに声が届くように、気を付けた。」プロがデビューした頃、よく言われる注意事項やん。「あー結果が怖い。」怖いって受かるつもりかい! 数時間後、「もう結果でたかな?」そう言って、携帯を見出しました。受かる訳無いやろ。俺がずっと受からんとぞ。あのポテト少年団だって受からんとぞ!(馬鹿にしてる訳じゃありません。本当に、ルミネでも、老若男女関係なく爆笑を取るトリオでした。) 「えっ!うそ!」 えっ!うそ!ってなに?受かるつもりやったとかい。そんな簡単に受かるもんじゃないんよ。何年も芸人やって舞台に立っとう人達が落ちるんよ。付け焼き刃で受かるもんじゃな・・。「合格やん。」「えっ!うそ!」同じ言葉を僕が言いました。 「やったー!私受かった。なんかそんな気しよったんよね。まあ、でも一回戦位やけん、受かったんか。一回戦位やったらネタ間違えんやったら受かるんやろうね。一回戦位、通ったって浮かれてもいけんよね。一回戦位はちゃんと・・・一回戦位やったら・・・・一回戦位・・・・一回戦・・・・・一回。」
今、この話を書いてて、浮かんでくるのは、畳に落ちていたアンパンマンのボールです。 恐らくあなたが浮かれて話しかけている時に、僕は、ずっとその畳に転がった、たけのりと書いてあった、アンパンマンのボールを見つめていたのでしょう。 そのアンパンマンの笑顔と、あなたの浮かれる声だけが思い出されます。 僕は、その時どんな顔をしていたのでしょうか。 翌日、複雑な気持ちのまま、僕は、R1一回戦を受けに行きました。 結果は・・・。 今、この話を書いてて、浮かんでくるのは、畳に落ちてたバイキンマンのボールです。 顔半分くらいの大きな口を開けて、こっちを見て笑っている、バイキンマンのボールです。 ただ、一点を見つめ続ける私に、あなたは、優しい顔で言ってくれました。 「私が合格したのはまぐれよ。大丈夫よ。のりひさは、漫才なんやけ、ピン芸人じゃないし、R1は受からんでも普通よ。」 いや、あんたもピン芸人じゃないやん!主婦やん。俺、芸人やん。主婦受かっとうやん!芸人落ちとうやん!何のフォローにもなってないやん!逆に傷ついてるんですけど! うわぁ〜!
(お宅や、あんたや、君等、色んな呼び方で呼ばせてもらっていますが、1回戦の結果が分かった後からは、本文でもあなたと呼ばせていただきました。) 夫のりひさより
※情報は2015.11.9時点のものです