“山口ゆめ博”食と芸術の幻想的なイベントを今秋開催!【リポ】 

 山口県央連携都市圏域(山口市、宇部市、萩市、防府市、美祢市、山陽小野田市、島根県津和野町)を舞台にした「山口ゆめ回廊博覧会」が7月1日(木)〜12月31日(金)に開催されます。圏域各地で多様なイベントを実施し、美しい伝統や文化、自然、食などを通して地域の魅力を全国に発信しようという、大規模な催しです。本開催に向けて、昨年10月31日にメインイベントの一つ「Yumehaku Art & Food in RURIKOJI」のリハーサルが開催されました。その幻想的で感動的な模様をリポートします!

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「Yumehaku Art & Food in RURIKOJI」のリハーサルに潜入

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会   撮影:桑原明丈

 「山口ゆめ回廊博覧会」の目玉企画は、アートを取り入れて非日常を演出する食のイベント「Yumehaku Art & Food in RURIKOJI」。会場は、山口市香山(こうざん)町・香山公園内の瑠璃光寺(るりこうじ)五重塔を臨む「満月の庭」周辺。この塔は室町時代に建立された趣深い木造建築で、国宝に指定されています。  同イベントを演出し料理を提供するのは、アーティストで、現在は京都市でレストラン「Farmoon(ファームーン)」を主宰する船越雅代 さん。圏域を巡り瑠璃光寺の歴史と出合い、見出した「OSMOSIS 滲透(しんとう)」をテーマに、イベントを構成したといいます。

いつもと違う夜の五重塔を見ながら、静かに始まりを待つと…

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 午後6時過ぎ、受け付けの東屋から続く足元の小さな明かりを頼りに、「満月の庭」と呼ばれている芝生広場へ。  五重塔は通常もライトアップされていますが、この日のライトアップは特別バージョン。下に向けられたライトの光がすぐ前に広がる池に当たり、その反射光が五重塔を照らしています。まるで風で揺れる水面の動きを捉えた光を塔がまとっているように見えます。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 直径約8mの白いドーナツ形のテーブルを囲み、20人が着席しました。  左手にガラス製の猪口(ちょこ)、右手にグラスと木製のカトラリーが置かれ、猪口とグラスは、テーブルに埋め込まれた小さな照明の上で、ともしびのように光っています。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 テーブルは山口市に鎌倉時代から約800年受け継がれてきた「徳地(とくぢ)手すき和紙」で覆われています。猪口、グラス、カトラリーも全て山口県在住の作家の作品です。  五重塔を照らす光、テーブル上の小さな2つの光、足元のダウンライト、そして月明かりと星の光。最小限の光の中、期待が高まっていきました。

静寂とほのかな光の中で食す料理に、味覚が研ぎ澄まされて

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 白い衣装を身に着けたパフォーマーが現れ、イベントは静かにスタート。聞こえてくるのは虫の声だけです。サーバーが、無言のまま猪口に酒を注いでいきます。  ほどなく、ガラス製の水瓶を肩に乗せたパフォーマーが現れ、テーブル内側の地面に水を垂らすとスモークが立ち上がりました。スモークはドーナツ型テーブルの内側に満ちていき、五重塔も、その後ろの東の空から昇った満月もかすんで見えます。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 そんな幽玄な光景に目を奪われているうちに、料理が運ばれてきました。私の前に立つサーバーは一言も発しないまま、数品の料理を載せた皿を目の前に置きました。  水の入ったグラスを皿の上に掲げると、水に反射した光でかすかに料理のシルエットが見える程度です。魚の尾らしき物は分かりましたが、その他はぼんやりとしか見えず、色彩も分かりません。一品を箸で挟み口に運ぶと、それは栗でした。  「これは何だろうか」と思いながら次々に口に運んでいると、それぞれの味わいが花開いていきました。甘味、辛味、うま味。口に入れて初めて分かる味は、視覚に頼らない分、より深く感じられます。野菜も魚も、全て圏域の食材だそうです。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

耳元で響く小さな鐘の音に刺激され、さらに味覚は鋭敏に

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会   撮影:桑原明丈

 食べている最中に、小さな鐘を持ったパフォーマーが、参加者一人一人の背後を回ります。チリンチリンという音が向こう側からこちら側へ、耳元を左側から右側へ。味覚と聴覚がつながっていくような、不思議な時間が流れます。  1皿目を食べ終わった頃、再びスモークがたかれ、同時にパフォーマーの祈りのような声が響きました。2品目は温かいだしの味が体に染みるわん物。この時も鐘の音が耳をかすめます。パフォーマーは再び参加者一人一人を回った後、テーブルの内側でも鐘を鳴らしました。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会   撮影:桑原明丈

 3品目はガラスの器に盛られたデザート。かんきつ系のソースがかけられたゼリーは、テーブルに埋め込まれた光の上に載せると、美しく輝きを放ちました。この時に耳元で鳴らされたのは、鐘ではなくトライアングル。懐かしくもあり神秘的でもあり…。誰もが奏でたことがあるはずの音色ですが、この場所、この時間に耳にすると、これまでのイメージとは違ったものにも聞こえたから不思議です。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会   撮影:桑原明丈

音、音楽と月の一体感を楽しむ

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 食事が終了した後、再びスモークがたかれました。これまでよりも力強いパフォーマーの声が響いたかと思うと、テーブル上も含め全ての照明が瞬時に消えました。  参加者の全ての視線は頭上で静かに輝く月に注がれ、イベント開始時よりも高い位置にある月が、煌々(こうこう)と私たちを照らします。月から丸いテーブルへと、空から一本の道がつながっているようにも感じました。普段感じることのない月の明るさに驚き、月の表面の模様を眺め入りました。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 しばらくすると、テーブルからすぐ横の芝生の上に案内されました。そこに待っていたのは、自然の中に暮らし、唯一無二の音楽で世界を魅了するOLAibiさん。  参加者はOLAibiさんが生み出す音楽を感じながら、芝生の上に座ったり寝転んだりして、自由に月光浴を楽しみます。大地に触れ、月とつながる時間。宇宙を感じる時間。これまでになかった新しいお月見のスタイルなのかもしれません。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 音楽がフェードアウトして静かになると、全てのイベントが終了。その場は、温かい拍手に包まれました。

演出・監修・料理を手掛けた、船越雅代さんの思い

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会   撮影:桑原明丈

 イベント終了後、演出・監修・料理を担当した船越雅代さんがあいさつしました。  「私が大切にしたかったテーマは水。水は地球上の生命の源であり、その環境によって様態を変え、流動します。豊かで多様な水をたたえた山口と、その美しい水によって育てられた自然の造形、作物。それらを考えた時に『Osmosis〜滲透〜』というテーマも生まれました」。

出典:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会  撮影:桑原明丈

 山口の美しい水で育った素材で作られた料理は体の中に、五重塔の幽玄な雰囲気や月の存在は精神の中に。多くの物が染み込んできた、素晴らしい夜になりました。  この場所だからこそ生まれる、アートと食が融合する新感覚のイベント。今年秋から始まる本番では、多くの人の感性を刺激するに違いありません。

山口ゆめ回廊博覧会

日時:7月1日(木)~12月31日(金) 場所:山口県央連携都市圏域(山口市、宇部市、萩市、防府市、美祢市、山陽小野田市、島根県津和野町) 問い合わせ:山口ゆめ回廊博覧会実行委員会事務局 電話:083-934-4152(平日9:00~17:00)

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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「ファンファン福岡/サブクリップ」(福岡都市圏内配布、福岡市地下鉄駅駅設置)紙面に掲載した話題、編集部員が突撃取材した話題などを紹介します!

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