海産物卸問屋「博多三徳」3代目 上田江美子さん

雨が雪に変わりそうな冷たい外気に包まれた1月下旬、福岡市博多区対馬小路(つましょうじ)の一角で威勢の良い透き通った女性の声が響いた。

「今からブリの解体ショーが始まりますよー!」 大きなまな板には、9kg以上ある脂がのったブリ。 「天然ですよ!今日、長浜に水揚げされたばかりの新鮮なブリです!」 解体ショーを行うのは、老舗海産物卸問屋「博多三徳」3代目の上田江美子さん。「博多三徳」では毎月第4土曜日9:00~14:00、「博多朝マルシェ」が開催され(※7、11月除く)、とびっきりおいしいものを大切に作っている生産者10数店舗が並びます。解体ショーは、マルシェの中でも人気の企画。今回は、創業1959(昭和34)年の老舗海産物卸問屋「博多三徳」を切り盛りする上田さんに、食に対する思いや将来の夢について聞いてみました。

出典:ファンファン福岡

“売る”より“伝える” -マルシェはいつから開催しているんですか? 2014年4月から開催しています。祖父が創業した「博多三徳」は、博多で有名な西新リヤカー部隊や志賀島でとれた新鮮な魚を博多の町で売り歩く行商の方々でにぎわいをみせる問屋でした。そのうち、一般のお客様からも注文をいただくようになり、30年ほど前から通販を開始。多くの人においしい魚を召し上がってほしくて、2007年からは本格的に魚の加工・販売もはじめました。マルシェを始めたのは、生産者と消費者が顔を合わせ、双方がワクワクするような活気のある空間を作りたかったから。毎月、多くの方が楽しみに足を運んでくださっています。

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-幼い子どもから高齢者まで、いろいろな方で賑わっていますね。 はい。もともと対馬小路は問屋街で多くの店があったのですが、今では数えるほどしか残っていません。月に1度ですが、加工品だけでなく、新鮮な野菜や魚が並ぶとお客様の目が輝きます。マルシェでは、「これはどう料理するとおいしいの?」「この野菜、食べてみて!絶対おいしいから」といった買い物客と生産者の間に会話が生まれます。私は「売る」ことより、「伝える」ことを大切にしたいと思っています。売ること、買うことより、気持ちを伝えることが大切。それができるのが「マルシェ」だと思っています。

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こだわりの祖父、寛容な父 -3代目を受け継いだのはいつですか。 実はまだ3代目修業中です(笑)。2014年4月に父が亡くなり、同年12月に祖父が亡くなりました。今は、母が2代目半として、私が3代目修業中ということで、切り盛りしています。

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-3代目を受け継いだ時の気持ちは。 もともと海産物卸問屋を受け継ぐつもりはなく、入社したころはアジとイワシの区別がつかないほど何も知りませんでした。私には2人の子どもがいますが、母親になって初めて、子どもたちに安心して食べさせられる食材や加工品を意識するようになり、「博多三徳」の商品の良さをあらためて知りました(笑)。最初の1年目は、パートとして店の手伝いをしていましたが、徐々に「この店を残したい」という意識が高まり、おだし教室を始めました。3年ほど前に「跡を継がせてほしい」と父に打ち明けましたが、父から「お前が3代目だ」と伝えられたのは、亡くなる3ヶ月前のことでした。

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-先代のお父さまが亡くなられ、不安もあったと思います。 父が亡くなった8ヶ月後、96歳で祖父も他界。父が亡くなった翌々日が第1回目の博多朝マルシェで、悲しんだり不安な気持ちになる時間はありませんでした。母と兄弟、従業員のみんなで力を合わせて頑張るしかない、それだけでした。「良質でおいしいものしか売らない」というこだわりを持ち続けた祖父、私が「おだし教室」を開講すると言ったとき「お前が好きなようにやればいい」と、背中を押してくれた寛容な父。2人の思いをしっかりと胸に刻み、母と妹、弟とともに頑張っていきたいと思っています。

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食が変われば人生が変わる -上田さんのポリシーは。 ウソをつかないこと。いいものを、おいしいものを、嘘つくことなくきちんと伝え、お客様に届けたい。そのために、おいしいものを仕入れ、加工・販売していきたいと思っています。

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-3代目としての今後の意気込みを。 海産物卸問屋として「高品質の物を選べばおいしさはもちろん、手間いらずで経済的」ということを伝えていきたい。旬の新鮮な魚の美味しさ、心が和らぐ優しいおだしの味わいを子どもたちに伝えていきたい。食が変わると、暮らしが変わる。暮らしが変われば人生が変わる。より良い人生を一人でも多くの人に送ってもらえるよう、私にできることをしっかりとやっていきたいと思っています。  

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