社内にキッズルーム、会議は十数分、夜7時には消灯…。ワークライフバランス(仕事と生活の調和)が取れた働き方を追求し、社員がやりがいを持って働くことで、成長を続けている会社があります。ソーシャルビジネス会社「ボーダレス・ジャパン」。福岡市東区のオフィスを訪ね、成長の鍵となる同社の働き方を探ってみました。
ボーダレス・ジャパンは2007年、創業者の田口一成さんが「途上国の貧しい人たちの役に立ちたい。寄付に頼らず、生活に欠かせない経済活動を通して社会を変える。」という夢を追いかけ、25歳の時に起業した会社です。
創業時は社員9名、初年度の売上高は2000万円に届きませんでしたが、年々事業が拡大し、社員数も増加。現在の社員数は468名、2014年度の売上高は15億円を超え、15年度は21億円の売り上げが見込まれています。
現在、「オーガニックハーブで貧困農家の収入UP」「バングラデシュの貧困層に雇用を生み出す縫製工場」など、世界の「貧困」や「環境問題」などの問題解決を図るため、9つの事業を展開中。2014年から取り組んでいるバングラデシュに雇用をつくるビジネス革製品の事業では、現地の工場で作った革製品を割安に日本で販売。昨年6月には、福岡市・天神の地下街に常設店舗1号店をオープンし、今年1月には大阪にも開店しました。今後、東京、熊本などにも出店予定で、来年度内に10店舗がオープンする予定だそうです。
無駄のない働き方 「求められるのは、スピードと集中力、そして、決断力。なるべく早く課題をクリアすれば、それだけ社会問題も早く解決できる」と、田口さんは語ります。 効率的に時間を使い、成果を出すため、日々の会議は朝のプロジェクト会議のみ。朝会議を見学させていただいたところ、一人ずつ、前日の業務報告とその日のタスクを発表し、前日のタスクが終了していない場合はその理由を報告、「今日は○○に2時間、○○に3時間かけて取り組みます」といった具体的な内容を伝えていました。
一般的に、「会議」というと「会議室で座った姿勢で」開催されることが多いと思いますが、ボーダレス・ジャパンには会議室がなく、オフィスの端にあるホワイトボード周辺に集まり、立ったまま社員はそれぞれのタスクを発表します。時折、田口さんが指示やアドバイスをする場面も。会議はわずか10数分で終わりました。
「(日々のタスクを発表することで)社員が自発的に自分の業務を考えるようになり、時間を意識することで、無駄な時間を過ごすことなく、効率的に仕事に取り組めるようになった」と田口さん。中には、目標の時間内に仕事を終わらせるため、デスク横にストップウオッチを置いている人もいました。
会社外でのインプットが大事 残業はほとんどありません。午後7時になると田口さんが電気を消し、全社員が家路へとつきます。「遅くとも夜7時に帰れば8時には家に着く。家族がいる人は家族との時間が持てるし、独身者は友人と会ったり、趣味の時間を持ったりすることができる。会社はアウトプットする場所。会社外でのインプットがなければ成長はない」と田口さん。 2年前に転職してきた大塚祐子さんは「7時消灯制度とタスクを毎朝発表し始めてから効率がかなり良くなり、ムダがなくなり、体調もコントロールできるのでまさにワークライフバランスは整っています。以前働いていた職場では、終電まで仕事して、たまに徹夜は当たり前だったので、すごく今が嬉しいです。その頃より業務の量は多いはずなんですが、不思議です」と話していました。
職場で子どもが遊ぶ光景も 社員の多くは20~30代で、妊婦や子どもがいる人も少なくありません。働く親たちの悩みの一つが「仕事と子育ての両立」ですが、福岡オフィスにはキッズルームがあり、社員の子どもは原則出入り自由なので、保育園や学校帰りの子どもたちが遊ぶ光景も日常的に見られます。
保育園や学校から自宅に帰る前に子どもたちが職場へ立ち寄ることも多く、社員同士のコミュニケーションも子どもを通じてより広がっているようです。妊娠7カ月の呉原郁香さんは「子育てとの両立がイメージしやすく、出産後も働き続けたい」と語っていました。
田口さんは、「みんなが楽しく仕事に取り組める環境を考えたら、自然とこんな風になっていました」と語ります。社員が楽しく仕事に取り組める環境が整えば、より効率的に仕事ができ、業績も上がる。こんな好循環が行われているようでした。 超える人間が社会を変える ボーダレス・ジャパンでは、3カ月ごとに面談があり、夢や志を書く機会があるそうです。その夢や志について田口さんがフォローし、それが次のプロジェクトにつながることも。「社員のモチベーションを高く保ち、一人一人が社会起業家として自立できれば、社会はきっと変わる」と田口さん。 現在は若手が中心ですが、今後は中高年の中途採用にも積極的に取り組む予定だそうです。「多様な人がいてこそ、多様な事業展開が見込める。課題や困難はたくさんあるけれど、それらを『超える』人間が集まれば、きっと世界はもっと良くなる」。田口さんをはじめとする「ボーダレスマン」たちの活躍の幅はさらに広がりそうです。