経済ジャーナリストで、まちづくりなどに深い関心がある神崎 公一郎さんが、「天神ビッグバン」を読み解いていくシリーズ。 天神ビッグバン計画が進行する中で、「天神の未来に夢を託して」の商業施設の閉店も相次いでいます。人の流れと商業地図は変わることが予測されますが、天神ビブレ、天神コアなどが若者文化を発信してきたように、若者が引き続き訪れたくなる、そんな天神の街としての魅力づくりも進んでいます。
「福ビル街区建て替えプロジェクト」で、長さ100mにわたって東西の通り抜けができなくなった
2020年2月11日、天神ビブレが「44年間分のありがとう」と銘打った最後の売り尽くしセールを終えて幕を閉じた。
その喧騒も冷めやらぬ翌12日には既に、隣接する天神コアとの間は壁で仕切られていた。その天神コアも3月31日をもって閉館。 2019年3月末で閉館している福岡ビルに続き、長さ100mにわたって東西の通り抜けができなくなった。
夏(6月30日)には、天神ビブレ東側の国内最大級の書店「ジュンク堂書店福岡店」が入るメディアモール天神(MMT)ビルが閉館し、南側の商業ビル「イムズ」も2021年8月には営業を終え、新ビルの建て替えが始まる。 いずれも、明治通りが渡辺通りと交差する天神交差点から博多大丸と福岡三越が向かい合う渡辺通4丁目交差点に向かう渡辺通りの東側にある。 天神コア(売り場面積1万2000㎡)、天神ビブレ(同1万4700㎡)、イムズ(1万㎡)にMMTビルの「ジュンク堂書店福岡店」約6800㎡を加えた合計4万3500㎡の売り場が、新ビルがお目見えする2024年ごろまでの期間、消えることになる。 この「商業空白地帯」とも言える面積は、天神地区売り場面積約27万㎡の約16%を占める。
西鉄福岡(天神)駅と地下鉄天神駅、天神南駅などが天神の集客力の源泉
天神は、南は国体道路から北は福岡市民会館のある須崎公園まで距離で1㎞余り、東西は那珂川から天神西通りまで約700mのエリア。 1丁目から5丁目まであり、東西には南から国体道路、明治通り、昭和通り、那の津通りが走る。 中心部は南北を走る渡辺通りの東側が天神1丁目で、西側が2丁目。西鉄福岡(天神)駅と西鉄天神高速バスセンター、市営地下鉄空港線天神駅、同七隈線天神南駅が集中する交通の要所である。 天神の一日あたりの駅利用者数は、西鉄福岡(天神)駅の乗降客数が13万4000人弱、地下鉄天神駅が約14万3500人、地下鉄天神南駅が2万9000人弱の合計約30万6000人(いずれも2017年度、西日本鉄道、福岡市交通局調べ)。 これに高速バスと市内各地からのバスの乗客が加わる。天神の1㎞四方に満たないエリアに4000強の事業所があり約7万人が働いている。 これらが、JR博多駅地区の商業集積が進み、天神一極から二極になっても天神の販売額がなかなか落ちない集客力の源泉である。 渡辺通りの天神地下街から西側は、福岡パルコ、ソラリアステージ、福岡三越、ソラリプラザ、VIORO(ヴィオロ)、岩田屋、新天町商店街など多彩な商業施設がひしめき、各交通機関から手間をかけずに移動できるのが強みとなっている。
天神エリア、商業施設マップ
「商業空白地帯」の出現で人の流れは渡辺通り西側の天神2丁目へ
福岡市の都心部歩行者通行量調査(2017年3月)によると、天神で最も通行量が多いのは、ソラリアステージからソラリアプラザの通りで、次いで福岡パルコから西、天神コアと福岡パルコ間で、平日一日あたり3万人前後、休日は4万人近くが行き交っている。 天神地下街は、平日で福岡パルコ側が6万人強、天神コア側が5万人弱、地下鉄天神駅近くの天神交差点は約7万5000人、天神南駅近くは4万人強となっている。 福岡ビル以南の商業空白地帯の出現による人の流れについて、天神地区の商店街関係者は「想像はつかないが、天神コアやビブレがなかった時代を思い出しながら対応するしかない」と話す。 「ハフモデル(※1)によれば、売り場面積によって人が集まってくるわけで、売り場が無くなればその分人も減る。残る施設、天神地下街、福岡パルコ、ソラリアステージ、福岡三越、ソラリプラザと重心は西側に移るのでは」とみている。 さらに、飲食店や美容室、新しいファッションを提供する店が増えている国体道路から今泉にかけて流れていくのではないか、というのである。 (※1)1960年代に、米国の経済学者であるDavid Huffが作成したモデル。そのお店に行く確率(出向比率)を、売り場面積や魅力度などの競争力を表す数値と店舗までの距離を使い算出する式。店舗の売場面積に比例し、そこまでの距離に反比例する。
天神地区の商業施設の開業年
公益財団法人・九州経済調査協会事業開発部の小栁真二研究主査は、こうみる。 小栁主査: 「各交通機関を利用する通勤・通学の人は変わらないので、安定的な人の流れは大きくは変わらない」
10~20代をターゲットとした天神ビブレ、天神コアの閉館で、若者はどこへ行く
閉館する天神ビブレ、天神コアは10~20代の若者をターゲットとしており、イムズも含めいずれも若者文化の発信地だった。小栁主査は「これらに代わる受け皿が見当たらない」と言う。
一部は渡辺通りを挟んだ向かいの福岡パルコやソラリアプラザ、JR博多駅地区に流れるが、価格帯が合わなかったりして、居住地に近いショッピングセンターやインターネット通販を利用するなど分散化して落ち着くのではないか、とみている。
天神地区の小売業
新たな出店が相次ぎ、新陳代謝が良いのも天神の魅力
売り場面積が力のバロメーターとするなら、天神への来街者の減少も見込まれるが、天神には面としてのつながりの良さがある。 天神地区は国体道路から大名、今泉、渡辺通り4・5丁目と面的広がりを見せており、飲食店は博多駅地区の倍となる2000店を超え、美容室は同8倍となる400店余りを数える。(いずれも九州経済調査月報2016年6月号) 4月28日、新たな複合施設「カイタックスクエアガーデン」が国体道路沿いの警固1丁目に開業する。ミニシアターのほかファッションや飲食店、ヘアサロンなど19店舗が入る。売り場面積は約2500㎡。新たな出店が相次ぎ、新陳代謝が良いのも天神の魅力である。 仕事以外に、天神に訪れる理由、訪れたくなる理由は何か? 通勤・通学、買い物、食事、映画や美術館、美容室、まち歩き。多岐にわたる街の特徴を生かした魅力づくりが求められている。天神には地区一体となった集客の取り組みで、これまで成果を上げてきた実績がある。次回はその取り組みを追う。 文=神崎 公一郎