「はい、この子聴こえてないね」 息子の難聴が医師の言葉で確信に変わった瞬間…vol.15

森本夫妻の『笑って笑って三人四脚』…vol.15

妻へ 懐かしいですね。 出産を終え、まだ入院中の福岡の産婦人科から、あなたが泣きながらくれた電話で、子どもの難聴を知った私は、都内の大型書店をはしごして、あらゆる聴覚障がいの本を乱読し、必要だと思う本を買い漁りました。 あなたが東京に戻って来る前に、色んな事を知っておこうと。 何と言っていいか分かりませんが、難聴で産まれて来た子どもの為にでもなく、あなたの為にでもなく、もちろん、私の為にでもなく、その先に見える家族の三人の暮らしを頭に描いて、書店を歩きまわったのを思い出します。 なぜか分かりませんが、息子が中学校の制服を着ている頃の家族三人で笑っている生活の場面がよく頭に浮かんでいました。

出典:ファンファン福岡

そして、多くの本を読んでいく間に、普通に生活していたら、一生知らないまま死んでいくであろう、沢山の事を知りました。難聴の原因、種類、耳の構造、人間の言語獲得の仕組み、聴覚障がい者の歴史、聴覚障がい者への教育の歴史、 差別など。 こういう事は、知らなくても良い事だと思いますが、何でしょう?私の性格でしょう。昔から、ゲームソフトを買っても、電化製品を買っても、製品に触れる前に、まず最初にする事は、取扱説明書を一通り読む事でした。 そういう性格なんで、どんどん出てくる事は、全部知りたくなるんです。はっきり言えば、必要のない事ばかりです。 ただ、私と違ってあなたは、現実的でそういう事にあまり、興味がないと思います。 でもあなたにとって、興味のあるというか、大事な事も知りました。重度の感音性難聴は、補聴器を付ければ聴き取れる訳ではない。むしろ、ほとんど意味はない。 ただ、そういう人にも、今は人工内耳という最新医療の器械があるという事を。 この人工内耳と言う器械を付け、訓練をすれば、聴き取る力がかなり上がる。 これはすごい。あなたに教えてあげなければ。 そして、毎日していた電話の中で、かなりの重大発表のつもりで、その事を伝えました。 「ジェシちゃん、今、最先端の医療で、人工内耳って器械があるんよ。」 「あっ、知っとうよ。」 「えっ?」 えっ?何で知っとんやろ?向こうで本でも読んだか? 今まで一度もあなたの本を読んでいる姿なんか見た事ないのに。 漫画でさえも読まないあなたが、本を。リビング福岡をチラ見する程度のあなたが、本を。やっぱり子どもの為なら変わるんやな。 「えっ?何の本を読んだと?」 「いや、本とか読まんよ。ネットで見た。」 ネット?ネットで調べられるんかい!なんて、今の時代はお手軽なんでしょう。 こっちは、色んな書店を回って色んな本を読んでたどり着いた答えが、ネットでは簡単に出てくるなんて。便利な世の中になりましたね。

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ベビーブーム時代に産まれて、厳しい高校受験を曲がりなりにも戦ってきた我々は、知識を吸収するのは、本でした。ネットで調べるなんて全く発想のなかった私は、ただただ、目からウロコでした。 そう言えば、パソコンだって、息子が産まれた年に家に置いた位ですから、私、38歳まで、インターネットとは疎遠の人生だったんです。 でも言わせていただけるなら、万が一にも、国家試験等に、1パーセントでも受かる確率があるのは、どちらかと言えば、絶対に本で勉強した私です。 そんな変な意地はどうでもいいですね。 話を戻します。 あなたも色々調べてたんですね。さすが、ママは偉大です。 そんなこんなで、あなたは出産後すぐに、東京の我が家に戻ってきました。息子が本当に、聴覚に障がいがあるのかを調べる精密検査を受ける為に。 東京の大学病院で沢山の検査をしました。 この世に産まれてたった二ヶ月しか立っていない、自分の可愛い小さな小さな赤ちゃんが、MRIを撮ったり、身体や頭に色んな器具を付けられ電波を流されたり、睡眠導入剤を飲ませたり、採血の注射を打たれたりと、見ているこっちがつらくなる位の検査をしました。

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数時間後、看護師さんに呼ばれました。 「森本さんお入りください。」 先生に何と言われるか、もう覚悟はしていました。でも、もしかしたら、福岡での病院の検査は簡単なものだったので、はっきりと分からず、本当は、異常はないんじゃないか、先生に、 「精密検査の結果、特に異常はなかったですよ。」 そう言われる、そんな僅かな期待も持っていました。 睡眠導入剤の影響でスヤスヤ寝ている息子を抱いたあなたと一緒に私は、先生の机の前にある椅子に座るように言われました。 神妙な面持ちの私達が、椅子に座るや否や、先生は、サラリーマンが昼時に、 「ちょっと昼メシ行ってきまーす。」 と言う位の感覚で、あっさりと言われました。 「はい、この子聴こえてないね。これは重度の難聴だね。」 いや、肩透かし。 そんなあっさり、軽い感じで?結果早くない? ドラマで見とったの全然違うやん。 まず、先生が、MRIの画像の前に立って、重い口調で、 「えー。検査の結果が出ました。」 そして、私の額から一筋の汗。 ゴクリと唾を飲む。 先生の口元を見つめる。 先生の重い口が開く。 そして、第一声は、 「大変言いにくいんですが…。」 ここまで言って、そして、3秒空けて、やっと結論でしょ。 それをいとも簡単にあっさりと、店のドアを開けた瞬間、店員さんを見てすぐに 「ラーメン、カタで。」 って注文するサラリーマンのごときスピードで言う? そりゃそう言われるの覚悟しとったけど、こっちは、万に一つの可能性だって多少は持って、先生と対峙しとったのに。唾を飲む前に、一筋の汗を出す前に、簡単にあっさりと。

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まっ、そんな事で、松坂投手の言葉を借りるなら、息子の難聴については、自信が確信に変わりました。 そして、これが、これから大変お世話になる先生との最初の出会いでした。 こうして思うと、素晴らしい先生に出会えたのも、その時に、東京に住んでいたからだなと思います。あの時期に東京にいた事に運命を感じます。 あれから、6年、今のたけのりは夢を語る様になりました。

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将来は、サッカー選手になるそうです。 そして、ワールドカップでも、オリンピックに出るでもなく、サッカー選手になった暁には、細かすぎて伝わらないものまね選手権に出たいそうです。

出典:ファンファン福岡

※情報は2016.8.4時点のものです

出典:森本夫妻

※この記事内容は公開日時点での情報です。

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