経済ジャーナリストで、まちづくりなどに深い関心がある神崎 公一郎さんが、「天神ビッグバン」を読み解いていくシリーズ。 天神ビッグバン計画が完了する2024年ごろまで、九州最大の繁華街・天神地区に「商業空白地帯」とも言えるスペースが生まれます。しかも若者文化を発信してきた施設だっただけに、その集客力が懸念されますが、天神には地区一体となった取り組みで、これまでも成果を上げた集客実績があります。
商業施設同士がエールの交換をする懸垂幕を掲げるのは、いまや天神の伝統行事
「再開、楽しみにしています!」(福岡パルコ)、「コアで(ビ)ブレない天神のライバルよ、永遠に。」(イムズ)、「心より感謝をこめて」(岩田屋本店)――。 昨年1月末、閉館する天神ビブレと天神コアに向けて、周辺の商業施設がいったん“お別れ”でエールを交換する懸垂幕やポスターを一斉に掲げた。 これに応えるように、天神ビブレは「44年間お世話になりました!天神の未来に夢をたくします。」、天神コアは「ありがとう!大好きなまち『天神』 これから大きく生まれ変わります。」と感謝の懸垂幕を掲げた。 これは、天神地区の商業施設15団体が加盟する「都心界(としんかい)」が企画した。 天神ビブレと天神コアはともにオープンから44年目で閉館するため、懸垂幕やポスターは数字の「44」と天神の「t」を組み合わせたロゴマークで統一、「44年間、天神をありがとう」の共通の言葉に、各店独自のメッセージを添えた。
天神の商業施設同士がエール交換の懸垂幕を掲げるのは、もはや伝統行事と言ってよい。 2010年3月、福岡パルコが出店した際には、「おとなりさんって、呼んでいいですか」(ソラリアステージ)、「お向かいさん同士、天神を盛り上げましょう」(天神コア)などと歓迎一色だった。 対する福岡パルコは「天神のみなさま、新入生のパルコです」と返した。当時の店長は、統一したデザインの懸垂幕に驚き、天神地区の一体感を感じたという。 エール交換の懸垂幕は、イムズ、ソラリアの開業20,25,30周年や2016年の岩田屋開業80周年など、連綿と続いている。その背景には、共存共栄で天神の発展を支えてきた都心界という存在がある。
都心界の「界」は天神界隈を1つの地域とする連帯感を示し、会員の発言権は平等
都心界は、「真に地域の発展を期すため、デパートと商店街が有機的に結びつくことはできないものか」と連合体づくりを考えた商店街と旧岩田屋(現岩田屋三越)の人たちが、1948年(昭和23年)8月に結成した。 当初の「都心連盟」という名称は「天神一帯を将来、必ず都心に…」という願いを込めて、全会一致で決まったという。 この連合体づくりの発案は、それぞれのトップ層からではなく、宣伝担当者など第一線の人たちがその必要性を痛感した点に大きな特色がある。だからこそ、組織作りが順調に進んだとも言える。 そして、組織の大小にかかわらず発言権を平等にしたことも、今日まで一体感が失われず続いてきた要因の一つと言ってもよい。 名称も、都心連盟から結びつきを表す「会」の都心会に、そして、天神界隈を1つの地域とする連帯感を示す「界」の都心界に改め、今日に至ったのは広域的コミュニティー意識の芽生えによるものであった。 現在、都心界は天神地区の15の大型商業施設・店舗が親睦・協力を図りながら、共同売り出しや天神まつりなどにとどまらず、研究会の開催や都市開発への提言・要望活動を重ねている。 一方で、経済界の主流が個人から法人へ移ろうとするとき、天神地区の法人各社を集め地域団体を結成しようとする動きがあり、1955年4月には、天神町発展会(設立時は天神町発展期成会、現We Love天神協議会)が発足した。 天神をゆるぎない都心にするため、政治・経済・文化などすべての面で中核タウンにすることを活動目的に、うるおいのある街づくりに力点を置いた。
「天神ビッグバン賑わい創出プロジェクトチーム」が発足、特設サイトも開設
天神地区の住民や商業者、事業者、福岡市などで構成する「We Love天神協議会」は昨年2月10日、「天神ビッグバン賑わい創出プロジェクトチーム」を福岡市とともに発足させた。
再開発工事が終了する2024年まで天神の活力を維持するため、集客イベントなど賑わいづくりに取り組む。 閉館した商業施設は渡辺通り東側に集中するため、通りの西側から東側へ来街者の流れを生みだす考えだ。 そのため、福岡市庁舎西側のふれあい広場や天神中央公園、天神と中洲の境に位置する「水上公園」のほか、同協議会主催で歩行者天国「FUKUOKA STREET PARTY」を毎年開催する岩田屋本館と 新館の間の「きらめき通り」との連携強化も検討する。 ビル内でも歩行者が自由に通行できる公開空地の福岡三越ライオン広場や西鉄福岡(天神)駅に隣接する複合商業施設「ソラリアプラザ」1Fイベントスペースのゼファ、福岡銀行本店広場などもサテライト会場として活用。週末を中心に、音楽やアート、飲食など様々なイベントを企画していく。
ランチタイムの飲食店不足も懸念されていることから、オープンカフェやキッチンカーによる飲食スペースを増やすとともに、日常的な賑わいをつくることも検討している。 街角や歩道での取り組みには規制緩和も必要で、福岡市や県警とも協議しながら進める。 天神ビッグバン特設サイトも、4月1日から本格稼働した。天神地区のイベントは、それぞれの施設が情報発信し、一貫性がなかったことから、ポータルサイトとして週末のイベント情報やグルメ、ショッピング、エンターテイメント情報などを発信している。 閉館する施設のテナントの3割弱は福岡パルコやソラリアプラザ、天神地下街など天神地区内で移転するため、移転先情報も含め、きめ細かくフォローしていく。
各施設の実務者で構成する「集客・回遊施策検討チーム」が天神一体の集客イベントを企画
We Love天神協議会(WLT)には、各商業施設の実務者で構成する「集客プロジェクト」という会議体がある。天神地区の集客イベントを検討し、そのイベントに合わせて、各施設がキャンペーンを展開してきた。 きっかけは2011年3月の九州新幹線全線開業とJR博多シティの開業。博多駅エリアの台頭に、天神地区自体の集客を狙わなければやっていけなくなるという危機感からであった。 インターネットの普及による来店者の減少もあった。今後は都心界との連携を強化し、検討チームを再構成しながら企画の検討を進めていく。 JR博多シティ開業による来店客の減少で、2012年度こそ前年度比でマイナスの商業施設も見受けられたが、各施設の改装等による魅力の高まりに加え、天神地区一体となった集客の取り組みが成果を上げた。 札幌、名古屋、京都などJR駅ビルの再開発が行われた地域では、既存の商業集積地のポジションが相対的に低下したが、JR博多駅地区で売り上げで1000億円を超える商業集積が進んだにもかかわらず、天神地区は健闘している。
4都市(札幌、名古屋、京都、福岡)における主要商業施設販売額の推移
2020年1月に開かれた都心界の新年会で、「若者の集客は落ちるけど、頑張ろう」という声の中で、福岡パルコの取り組みが注目された。開業10周年を迎えた同店は2010年の開店以来、新館建設、増床などもあるが、増収を続けている。 泊まれる本屋「ブック・アンド・ベッド・トウキョウ」(2017年4月)やシェアオフィス(同年12月)の導入などで、これまでない客層を取り込みながら、集客イベントも毎月3~4本連続して開催してきた。 東京でも新しいショップを、福岡パルコ独自でいち早く取り入れたり、セレクトショップ限定商品の企画、テナントショップや他のメーカーとの共同企画のほか、地元福岡の企業との業態開発に取り組んだ。 情報発信も、紙媒体からウェブ中心に移行した。こうしたパルコ独自の集客力を、天神地区一体の集客力にどう結び付けていくのか、注目される。 文=神崎 公一郎