2020年の緊急事態宣言が発令された直後4月19日に募集を開始した、福岡天神の屋台を救うクラウドファンディング「SAVE THE YATAI」。今回は、フリーライターの山内 亜紀子さんが、1,000万円を超える支援金を集めたクラウドファンディングの発起人であり、天神で屋台「ナカナカナカ」を営む髙野将樹さんと、福岡市経済観光文化局まつり振興課にぎわい振興係の森園さんに、これからの屋台の話を伺いました。
屋台公募で新規参入した髙野さんが立ち上げた、屋台救済のためのクラウドファンディング
ーー新型コロナウイルスの影響で観光客が激減し、屋台にも多大な影響が出始めていた2020年3月。福岡市の屋台公募で2019年に新規参入した屋台経営者である「ナカナカナカ」の髙野さんは、「SAVE THE YATAI」という福岡天神の屋台を救いたい!というクラウドファンディングを立ち上げます。
髙野さん: 「3月に入ってからすぐに観光客が激減し、屋台にも影響が出始めました。あまりにも暇でデリバリーのバイトをしたりしていたのですが、過去にクラウドファンディングを経験したことがあったので、屋台を救うクラウドファンディングができないかと思ったんです。 僕は2019年の新規参入屋台公募で選ばれた新参者なので屋台組合に相談をし、福岡市の森園さんには休業中で屋台を営業しておらず写真がなかったので、福岡市が所有している屋台の写真がないか相談にいきました。 元々屋台で働いた経験があり、屋台の楽しさを知っていたことから自分の屋台がやりたいと福岡市の新しい取組である屋台公募に応募し選ばれました。屋台の灯を絶やさないために始まった公募で選ばれた僕だからこそ、今できることがあるんじゃないかと思ってクラウドファンディングを始めたんです。」
ルールを守ることを前提とした「福岡市屋台基本条例」が制定され屋台は存続の道へ
ーー髙野さんが選ばれた新規参入制度は福岡市独自の制度です。屋台を福岡の文化として残すために生まれたこの制度はどのような経緯で生まれたのでしょう?
福岡市役所 森園さん: 「屋台公募は、原則一代限りで将来的にはなくなっていく予定だった屋台を、福岡市が新たに公募して新規参入を求めるものですが、その代わりきちんと公募して集めようと始まったプロジェクトです。 過去に汚水の垂れ流しや歩道の占拠などルール化されていなかった屋台が問題視され“原則一代限り”というルールができたのも事実です。 ですから、きちんと屋台営業に関する基準を設けるために「屋台問題研究会」での議論を踏まえ,平成12年に「福岡市屋台指導要綱」を策定するなど適正化に向けた取組を進めてきました。 その後,独自の観光資源といえる屋台を残す方向での検討に入り,「屋台との共生のあり方研究会」を設置し、市民、ジャーナリストや有識者、屋台組合で議論をしました。 そして平成25年にルールをきちんと守ることを前提とし、福岡市屋台基本条例という条例が制定され,新規参入のみちがひらかれました。様々な審査を経て選ばれたのが今新規参入されている屋台のみなさんです。」
新旧の屋台経営者が結束したクラウドファンディング
ーー新規参入で選ばれた髙野さんが発起人となり始まったクラウドファンディングでしたが、他の屋台経営者たちはどんな反応だったのでしょうか?
髙野さん: 「屋台組合の方から各屋台には連絡をしてもらい、最終的に35店舗が賛同してくれました。今まできちんと話したことがなかった、昔からある屋台の店主さんがわざわざうちの屋台にきて声をかけてくれたりしたんです。 新型コロナウイルス以前から、2ヶ月に1回清掃作業をはじめていたのですが、昔からの屋台の人も参加してくれるようになったり、屋台の隣同士の交流や屋台を守ろうと思う人達のつながりは感じていました。今回のクラウドファンディングでも、そのつながりは生きていたんじゃないでしょうか。」
クラウドファンディングで得たものは、支援金の向こうにみえるお客さんの顔
ーー「SAVE THE YATAI」は1,000万円を超える支援金を集め終了しましたが、髙野さんは、クラウドファンディングで資金面だけではない気付きを得たと話します。
髙野さん: 「1,000万円という金額はもちろん大きいですが、それだけ支援したいと思ってくれる人たちがいるということに励まされました。福岡市内はもちろん県外、海外の方の応援メッセージはとても嬉しかったです。 福岡市内の60代の方が“今まで福岡に住んでいて一度も屋台に行ったことがないけれど、これをきっかけに屋台に行きたいと思っています。”というメッセージを送ってくれたのが印象に残っています。 金額の向こうにお客さんの顔が見えるというか、支援金だけではない大きな力をもらったと思っています。」
屋台で一見さんが肩を寄せ合う日常が戻ってほしい
ーークラウドファンディング「SAVE THE YATAI」は1,252人の支援者を集め、1,000万円以上の支援金を集めましたが、髙野さんと森園さんが考える福岡屋台の今後は?
福岡市役所 森園さん: 「屋台のみなさんからは、“今は開けても赤字、でもがんばるしかない”という声を聞いています。福岡市の職員で屋台の皆さんと関わっている者として、この状況は本当につらかった。だから極力できることはやりたいと思いました。 屋台のみなさんは口を揃えて“屋台からコロナを出してはいけない”とおっしゃいます。コロナが出たら屋台全体に影響があると、とても決意が固く自粛前の早い段階から気をつけ、口に出していたことが印象的です。 屋台同士の結束も深まったと聞いています。今まであまり関わっていなかった人たちとも皆でコミュニケーションをとれるようになった、力を合わせるきっかけになったのではないかと思います。 今、屋台の人たちはお客さんを求めています。今こそ屋台初心者の人に行って欲しいですね。この時期だからこそ大将と話すチャンスかもしれません。 元に戻るのか、新しいスタイルになるのかはわかりませんが、一見さん同士が肩を寄せ合って何気ないコミュニケーションがとれる、そこまで戻って欲しいと思っています。」
髙野さん: 「緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだお客さんは戻ってきていません。5月も屋台を開けてみたんですが、人が少なくて再休業し梅雨で屋台を開けられない日が続いたので、本格的な営業は今日(7月17日)からなんです。 今後のことはわかりませんが、僕も屋台が好きで屋台を残したいと思ったひとりです。これからも福岡の個性ある文化のひとつとして、屋台の灯りを守っていきたいと思っています。」
クラウドファンディングでわかった福岡市民の屋台を残したいという思い
当たり前の日常に感謝するきっかけとなった新型コロナウイルス。コロナ禍の後に、福岡から屋台が消えてしまったら?と現実を間の当たりにし初めて不安になった人も多いはずです。 でもそれは、福岡市が“原則一代限りルール”のままだったら、近い将来迎えていたかもしれない未来なのです。 髙野さんが立ち上げた「SAVE THE YATAI」は多くの支援を集めましたが、屋台の厳しい状況はまだ変わっていません。ですが、このクラウドファンディングは、福岡市民が屋台文化を残したいと改めて強く思うきっかけになったのではないでしょうか? これからも福岡の街から屋台の灯をなくさないために、まずは私たちが屋台に行くことをはじめましょう。
ーーSAVE THE YATAI参加店舗から3店舗をピックアップ、はしごしてみました!
アツアツの鉄板料理&創作料理が人気「大衆鉄板屋台 ナカナカナカ」
福岡三越前、西鉄福岡駅から徒歩1分の「大衆鉄板屋台ナカナカナカ」は、好立地で仕事帰りのOL、サラリーマンに人気のネオ屋台。飲食経験が長い大将のつくる料理はどれもひと手間かかった一品。アツアツの鉄板料理はビールに合うこと間違いなし!
三越前の「ナカナカナカ」店名の由来は「何か(美味しいもの)ない?」の博多弁から
■大衆鉄板屋台 ナカナカナカ (福岡市中央区天神2-1-1 福岡三越前)
明太子メニューが充実!行列ができる人気店「天神にぎわい屋台てっちゃん」
大丸福岡天神店前に並ぶ屋台の中でも観光客に人気の博多名物が味わえる人気屋台。5種類の豚骨をブレンドさせじっくり焚いた自家製豚骨スープがたまらない「博多ラーメン」や5種類の明太子メニュー、おでんや串物などが並ぶ。現在フード、ドリンク全品500円という特別価格で提供中。屋台初心者も出張サラリーマンにもおすすめ。
■天神にぎわい屋台てっちゃん (福岡市中央区天神1-4−1 大丸福岡天神店前)
フランス人オーナーがつくる創作カジュアルフレンチの屋台「レミさんち」
渡辺通り沿い、天神南のロフト前にある「屋台レミさんち」は、フランス人のレミさんとフランス人スタッフ、イケメン2人が迎えてくれる屋台では珍しいカジュアルフレンチが味わえる人気屋台。アヒージョやキッシュ、エスカルゴ、ガーリックトーストなど女子にも人気のカジュアルフレンチが味わえる。
■屋台レミさんち (福岡市中央区渡辺通4-9 天神ロフト前)
福岡屋台MAP
市内の屋台軒数 101軒(2020年1月1日現在 / 福岡市経済観光文化局調べ) ※下記地図は「本日営業している屋台」を示すものではございません。屋台はそれぞれの定休日の他,天候や店主の体調等により,営業しない場合もございます。ご了承ください。 文=山内 亜紀子