遡ること、2000年。ミケランジェロも、ダヴィンチも産まれる前。ずっとずっと昔の南イタリア、ナポリ近郊。 最盛期には2万人が暮らしたと言われるポンペイ。裕福な人々はこぞって高価な顔料を使い、邸宅の壁を装飾し、豊かさと美しさを競っていました。
その壁の題材は、古代のローマで教養の証とされたギリシャ文化や神話の神々。
ヘラクレスや、アフロディテ、イシスなど、ギリシャやエジプト、ローマ以外の神々も広く受け入れる、おおらかな宗教感を持ち、信仰の対象としていました。 富裕層が暮らしたと考えられるナポリとポンペイの中間にあったエルコラーノにもアウグステウムの「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」など神話の神々を描いた壁画が残されています。
「ポンペイの壁画展」には青年エンデュミオンに恋をした月の神セレネの神話をモチーフにした壁画があります。 青年エンデュミオンに恋をした月の神セレネ。ゼウスに人間のエンデュミリオンに永遠の命を授けるようお願いします。ゼウスはエンデュミオンの若さと美しさを保つために永遠に眠らせ、夢の中でセレネと夜毎逢瀬を重ねるというものです。 生きていれば老いさらばえるエンデュミオンと、生きた都市であれば、風化してしまったであろうポンペイ。 ポンペイはその栄華と美しさを保つため、眠らされてしまったのでしょうか?ヴェスヴィオ山の噴火により、火山灰と火砕流に飲み込まれ、灰とともに、長く暗い眠りについてしまいます。 そして皮肉なことに、噴火によって消滅した街は、その火山灰が乾燥剤の役目を果たし、街の姿をそのままに保存してくれたのでした。
ローマ帝国の栄華という夢と、再び出会うために長い時を経て、壁画の破片を彩色し、ひとつずつパズルのように組み合わせることで蘇ったポンペイの壁画展。
貴重なこの機会に、どうぞご覧くださいませ。