日本人初のノーベル文学賞受賞作家として知られる川端康成(1899~1972)の美術コレクションを紹介する「川端康成 美と文学の森」が、久留米市美術館で開催中です。5月21日まで。
川端康成といえば、「伊豆の踊子」「雪国」「眠れる美女」「山の音」「片腕」など、挙げればきりがないほどの代表作がありますが、この展覧会は『作家』としてではなく、『美術愛好者でコレクター』でもあった川端康成に焦点を当てています。 正直、美術コレクターとしての川端康成については何のイメージもなかったのですが、展覧会に行ってびっくり!国宝の浦上玉堂の《凍雲篩雪図》、池大雅・与謝蕪村の合作《十便図十宜図》をはじめ、東山魁夷、青木繁、古賀春江、横尾忠則、草間彌生などなど、そうそうたる顔ぶれの作品が揃っていました。いかに川端康成が美術家と交流があり、また、美術作品を愛していたのかが分かります。
草間彌生の作品《不知火》と《雑草》は、1955年(昭和30年)に銀座の画廊で開催された草間彌生の個展で購入されたもののようです。当時、草間彌生は26歳。まだ無名だった草間彌生は高名な小説家が自分の絵を評価し、購入してくれたことに感激したそうです。 絵画だけではありません。土偶や埴輪、ロダンの作品にいたるまで、とにかく多彩なコレクションに圧倒されます。
作品の解説には、川端康成自身の言葉が綴られていますが、たとえばこちらの《埴輪(乙女頭部)》については、 ほのぼのとまどかに愛らしい。均整、優美の愛らしさでは、埴輪のなかでも出色である。 さすがです。川端康成の美しい言葉が加わることで、目の前の作品がより深く感動的なものに見えてきます。
川端康成は1899年に大阪市で生まれ、2歳のときに肺結核で父を、3歳のときに同じく肺結核で母を亡くしています。その後、祖父母に引き取られますが、7歳のときに祖母が死去、10歳で姉を亡くし、15歳のときに祖父が亡くなり、孤児となりました。 川端康成自身は、1972年4月、72歳の時にガス自殺をし、その波乱万丈な一生に幕を閉じました。会場には、祖父の死に至る日々を書いた15歳のときの日記をはじめ、初恋の人へのラブレター、ノーベル文学賞のメダル、受賞記念講演で通訳を務めたサイデンステッカーに渡された原稿「美しい日本の私―その序説」のコピーなども展示してありました。 とにかく見どころ十分の展覧会。一人の作家、一人のコレクターによる展覧会とは到底思えないほど圧倒的に素晴らしい作品がそろっています。この機会をどうぞお見逃しなく。 川端康成 美と文学の森 会期:4月1日(土)~5月21日(日) 場所:久留米市美術館 休館日:月曜日(5月1日は開館) 開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)