半身不随の弁護士&小説家が社会人生活を再開!「はじめてのお歯科医、しょげないでよベイべ〜」vol.9

42歳、半身不随の弁護士&小説家がいよいよ社会人生活を再開する!

車椅子には「LOCK’n’ROLL」 弁護士であり、小説家としても活躍する法坂一広さんは、脳出血で倒れて半身不随となってしまう。 退院後、社会復帰を果たした法坂さんを待ち受けていたのは・・・

出典:紺色らいおんさんによる写真ACからの写真

vol.9/はじめてのお歯科医、しょげないでよベイべ〜 入院した最初の頃に、どういうわけか歯科検診があって、歯科医の先生から「特に虫歯も歯周病もありませんが、歯石が溜まっているので、退院したら近くの歯科に行ってくださいね」と言われただけで終わりました。半年入院と聞いていたので、「退院したら」という言葉が妙に希望を帯びて聞こえ、「約束します」なんて答えてしまいました。 僕はこの年まで虫歯を患ったことがなく、歯科には小学校低学年の頃に乳歯を抜きに行ったくらい。ほとんど40年前ですから、そりゃあ歯石も溜まるでしょう。偶然母の葬儀に来てくれた方の歯科が、事務所の近くにあることが分かり、「これは母の引き合わせ、行かなきゃ」と思い切って行ってみることにしました。 ですが、この年になってほぼはじめての歯科だなんて、ちょっと怖いものです。歯石を削り始めると流血。歯が砕けているのではないかという勢いで歯石が口の中にぽろぽろと崩れていきます。1日で終わるものと思っていたら、虫歯の治療のように2カ月ほど通うことに。施術箇所を変えつつ何とか全部終わりました。 もうひとつ、はじめての経験を。僕の愛車はR34という型のスカイラインです。就職した年に買ったので、もう15年の付き合い。意外と大きいし、クセのある車なので、僕が病気して約1年半は誰も触らないままでした。ずいぶん傷んでしまっているようですが、業者さんによれば、今ならまだ売れるとのこと。いつになったらまたハンドルが握れるかわからないし、もう決心するしかありません。 愛車を売るというのは初めてで、業者の方が引き取りに来た時には、壁際に寝返り打って背中で聞いている状態。あ、でも壁が左側だった。左側が麻痺しているから左に寝返りできないんだ。ちょっとかっこつかないけど、寝たふりしている間に出て行ってくれ。ということで、なんだかんだ、病気して一番悲しかった出来事です。

Profile 法坂一広(ほうさか いっこう) 福岡市在住の弁護士、小説家。2011年に第10回「このミステリーがすごい!」大賞の大賞を受賞し、弁護士探偵物語シリーズを執筆。2015年に脳出血で倒れ、翌16年に仕事を本格的に再開。「もう乗らない」と車椅子をLOCKして(鍵をかけて)、マラソン大会復帰を目指す。最新作は「ダーティ・ワーク」(幻冬舎文庫、2015年)、西日本新聞社「のぼろ」で連載中。

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