今回は、木工家の稲津千草さん(38)にお話を伺いました。福岡市東区で「木工百科 ぶんぶく堂」をスタートさせ、現在は夫の成美さん(38)と一緒に運営していらっしゃいます。
――なぜ、この道を選んだのですか。 幼少期から工作が好きでした。例えば、厚紙でランドセルなどを作っていました。お人形には興味がなく、むしろ何か入れられる箱のようなものを作っていました。 ――どんな勉強をしたのですか。 木工を学んだ美大卒業後は福岡県大川市の家具職人に師事しました。最初は弟子なんか取らない、まして女は…と言われました。でも、隠し扉みたいなものがいっぱいあって、椅子も収用できるようにした卒業制作のデスクの資料を見てもらったら面白がってくださって。すんなり弟子入りできました。 ――修業はどうでしたか。 近所の人や家族のつてで注文が来て、師匠の指示で製作。その過程をチェックしてもらいました。材料の選択、機械の使い方や作業効率、仕上げなど、この時の経験が今のベースです。木は伸び縮みするので、梅雨や乾燥する冬など、時期に応じた隙間の計算が必要。木と向き合うことを学びました。その後、実家の倉庫を改装した工房で独立。注文してくれるお客さまが続いたので、1年間、朝から夜まで製作に没頭。お客さまに引き渡しを待っていただいて、作品の展示会をしました。その時、収縮率など、木がどう動くかを確かめながら製作し、失敗もたくさんしたことが今役立っています。 ――仕事のやりがいは。 最初は、人と関わらないで、もの作りだけすればいいと思っていました。でも、お客さまの要望を聞き、製品を届けたときに喜んでくださる姿を見て、自分の仕事がどう生かされ、思われているか実感しました。お客さまが、本棚に実際に絵本を並べた写真を送ってくださるなど、すごくやりがいがあります。今は人との関わりが仕事のかなりの部分を占めていて、注文に応じて努力し、自分が変われるのがうれしいです。 ――製作のポリシーは 家具が目立たないことです。テーブルなら器が映え、料理がおいしく見えるのが大事。引き立てる土台が変わると、暮らしは豊かになります。存在感があるけど主張しないことを徹底しています。 ――これから取り組みたいことは。 一点物を作るのが好きで、面白い一点物をつくりたいですね。例えば木馬は馬しかないのでなく、バイクじゃいけないのとか。子どもが喜び、誰もやっていないような物を作りたい。面白いと思ってもらえ、一生使える物、ほしいと思ってもらえる物を開拓していきたいですね。
【稲津千草さんプロフィル】 1979年生まれ。福岡市出身。武蔵野美術大卒業後、福岡県大川市の家具職人に弟子入り。2004年、実家の倉庫を改装した工房で「木工百科 ぶんぶく堂」開業。