単なる複合商業施設ではなく、そこはもう福岡のここにしかない“まち”なのです。1996年に創業した「キャナルシティ博多」(以下キャナル)は、斬新な色彩と建築構造、「都市の劇場」というコンセプトで福岡市民だけでなく、全国からの注目を浴びました。それから25年たっても色褪せず、今やもっとも有名な福岡の観光スポットのひとつに。今回は、ライターの帆足千恵さんと、常に、新しい遊び方、エンターテインメントを模索し、提案するキャナルの魅力を紐解いてみましょう。
【理由その1】キャナルシティ博多がパイオニア!? エンタメ&アートの最先端をいく
福岡市の中心部は、商業施設が集積する「天神」、ゲートウェイである「博多駅」といわれますが、キャナルはその間に位置し、カネボウ工場跡地を構想より18年の歳月をかけて開発。1996年にオープンしました。 文字通り運河(キャナル)が施設の中心を流れ、商業施設に加え2つのホテル、映画館、劇場、ビジネス棟など7つの建築棟による複合施設は約43,500㎡の壮大な規模を誇ります。
デザイン設計はアメリカの建築家、ジョン・ジャーディに依頼。彼は、日本では「六本木ヒルズ」「なんばパークス」、キャナル系列の「リバーウォーク北九州」などを手がけています。 「なんだ。六本木ヒルズに似ているのか」と思わないでください。キャナルが7年早く誕生し、福岡のこのエリアに「日本にここしかない“まち”」を展開していったのです。 何がスゴイのか、先進的だったのか。 筆頭にあげたいのは、運河を背景に施設の中央のサンプラザステージで繰り広げられる無料のショーです。 まず、私の度肝を抜いたのは、世界トップクラスのパーフォーマーがこの空間で演じる「キャナルサーカス」。 空中ブランコやトランポリンのアクロバットショー、球体の中で行うバイクアクロバットなど息を飲むエキサイティングなものから、ジャグリングやユーモラスな大道芸など、通常なら有料でないとみられないショーがバンバン展開されるのです(通常、ゴールデンウィーク期間に開催されています)。
そして、今ではキャナルのシンボルとなった、毎時00分と30分に行われる噴水ショー「ダンシングウォーター」。B1Fから4Fまで、噴水がのびやかに、天まで届くように踊り舞います。
これが夜になると、噴水と光の競演に。約2,500インチ相当の施設壁面及びガラス面を活かした3Dプロジェクションマッピングと、ウォータースクリーンに、まるでコンサートホールの中にいるような音響、照明による演出を加えた「キャナルアクアパノラマ」が登場します。
この「キャナルアクアパノラマ」では、福岡・博多に根ざしたオリジナルショーも展開されています。福岡が誇る世界無形文化遺産の祭り「博多祇園山笠」が、飾り山笠とともに山笠ショー「YAMAKASA」として上演。 さらに、参加者もインタラクティブに没入できる企画として、『ゴジラ 博多、上陸。CANAL CITY HAKATA GODZILLA The Destroy Mapping Show』では、 福岡の街を火の海にしてエンディングを迎える本編映像の終盤、来場者のスマートフォンからミサイルが発射出来るようになり、ゴジラ迎撃作戦がスタートしていました。
福岡市民は当たり前に感じているかもしれませんが、一施設が、ラスベガスに負けじとばかりに、無料のエンタメショーを毎日継続する意気込み自体が感動モノだと声を大にして言いたいです。 そして、キャナルの先駆的な取り組みがパブリックアート。1996年のオープン当時、韓国出身の世界的ビデオアーティスト、ナムジュン・パイクの「Fuku/Luck,Fuku=Luck,Matrix」が、縦10台、横18台、合計180台のテレビモニターで壁面を飾り、さまざまなイメージを映し出していのは圧巻でした。 現在は、各機器の修理中で休止していますが、日本最大のパイクの作品が福岡にあることを誇らしく思ったものでした。 その他にも、チームラボが手がける。伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の作品をモチーフとした「世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う」を常設展示されるなど、施設の中にちりばめられていますので探してみてください。 また、「劇団四季」の舞台が鑑賞できる「キャナルシティ劇場」、映画館「ユナイテッドシネマ・キャナルシティ13」では、日本初となる<映画を鑑賞しながら、食事を楽しむ>新しいスタイルの「プレミアム・ダイニング・シネマ」も導入。エンターテインメントに関しては、とにかく先駆的なトライをやっているのです。
【理由その2】国内外でもっとも有名な福岡の観光スポットのひとつに
もちろん本業の(?)ショッピングもグルメレストランも充実し、年々拡充を行っています。ファッションブランドをはじめ雑貨、スポーツ用品などの専門店などさまざまなカテゴリーの旗艦店が集結し、キャナルならではの品揃えの豊富さも魅力でした。 2011年にはファストファッションが勢揃いするイーストビルがオープン。「普段遣いからお土産まで何でも揃う」商業施設として、利用されるようになりました。 2001年には、地元・福岡や全国の人気店のラーメンが一堂に集結する「ラーメンスタジアム」も開業。出店する店は定期的に変わります。その他約50の飲食店が営業しており、グルメスポットとしても楽しまれています。
そして、今や全国から注目されているポイントが「キャラクターグッズの聖地」。 「THE GUNDAM BASE FUKUOKA」、「GUNDAM Café 福岡店」、『ONE PIECE』ほか連載中のグッズが揃う「ジャンプショップ」、『星のカービィ』の世界観を模した「カービィカフェ HAKATA」など挙げだしたらきりがないほどで、「九州や全国でここだけ」のショップも。 これだけの集積は日本のファンはもとより、外国人(在住、旅行者どちらも)をひきつける魅力となっています。
【理由その3】福岡のインバウンドも牽引 外国人検索『福岡の観光地』第1位
また、キャナルシティ博多は、福岡市民はもとより、国内外の観光客、特に外国人旅行者を誘致、集客してきました。それは創業当初より、外国人に対する受入体制の整備や誘客の地道な努力があったからといえます。 2001年から、インバウンド事業をはじめた私は、担当者との情報交換や事業を一緒にしてきたこともあり、その足跡は垣間見ただけでもたくさんあります。 2001年に、私が当時所属の「リクルート九州」で制作した台湾・香港向けの九州のガイドブック「自覧遊 九州」での記事展開は、今でも変わらない楽しさを伝えるものであると思います。
福岡に来訪者が多い韓国人個人旅行者が、もっとも早く注目しました。 2000年初頭には、ブログやSNSでその魅力が伝えられました。「多く来館してくれるが、どうしたらショッピングなど消費をしてくれるだろうか」といったモデルルートの提示、プロモーションも話していたこともありました。 2013年に福岡市内の主要商業施設が連携して外国人旅行者への特典や誘客イベントを行う「FUKUOKA WELCOME CAMPAIGN※」を企画したときには、キャナルシティ博多は早く賛同してくれ、結束を固めるきっかけになりました。 全国から「こんなにまとまってキャンペーンができる街はほかにない」と評価されたものです。 ※このキャンペーンは形を変えながら2017年まで続きました
博多港への外国クルーズ船来港時に備え、バス操車場の増設など、その他の国も含めて団体客も多く受け入れてきました。 メニューや表示の多言語化、フリーWi-Fiの整備、電子案内版、外貨両替機、一括免税カウンターの設置、イスラム教徒のための礼拝室を備えた外国人専用の案内所「キャナルツーリストラウンジ」(現在は閉鎖) 開設など受入体制の強化も着々とすすめてきました。 近年では、プロモーションにも注力してきました。韓国ではInstagram、中国ではwechat、台湾ではFacebookというように現地目線でのSNSの発信を強化。2019年は台湾やタイの旅行博に出展してのPRや、グルメクーポンなど特典で誘客促進も行ってきました。
2020年1月に、私が台湾やタイ、ベトナム、マレーシアのマーケット調査に関わらせてもらったときも、福岡に住む外国人モニターのモバイルで「福岡の観光地」を検索すると第一位もしくは上位に表示され、SNSや口コミにも「インスタ映えするスポット」「訪れるべき場所」として、キャナルシティ博多の名前が踊りました。 「台湾、台北にも大きなショッピング施設はたくさんあるのですが、トイレなども清潔、まちなみも綺麗で、何度でも来たくなる。どこか違う特別な場所です」と、台湾出身の社会人が話していたのが、鮮明に記憶に残っています。
「都市の劇場」でもあり「公園」でもありたい。さらに気軽に立ち寄るスポットへ
2017年度には1,700万人強と過去最高を記録し、2018年度は約1,660万人と好調を維持。2019年度は、日韓関係の悪化で韓国人旅行者が減少したのに加え、1月〜3月コロナの影響を受け減少。 さらに、コロナの影響が深刻となっている2020年度(2020年4月〜2021年3月)は少なからず影響を受けているといいます。 2020年は、9月の三連休以降から回復の兆しをみせ、10月から徐々に来館者が増加。11月には、まさに外国人旅行者を除いた売上額まで戻っていたところ、今冬はコロナの第3波が影を落としているそうです。
2021年に25周年を迎えるキャナルシティ博多の荒木明徳支配人に、今までの総括と今後についてお話を伺いました。 荒木支配人: 「もともとここ(キャナルシティ博多)を買い場(商業施設)とは思っていないんですよ。お客様がいらっしゃる動機はなんでもいい。時間つぶしでもいいから、来て楽しんでいただければいいと。 商業集積のある天神と交通結節点の博多の間にできたキャナルに、福岡市民やお客様に足を運んでもらうには、大きな旗艦店を誘致・展開する、誰もが楽しめるエンターテインメントのショーを毎日開催するなど努力しないといけなかったんですね。 そんな積み重ねが認められて、圧倒的に観光客にも有名になった自負はあります。商業施設ではなく、福岡の観光名所として見られているのは嬉しいことです。」
「25周年を迎えて、感動、ワクワクを与える「都市の劇場」というコンセプトは未来永劫変わらないのですが、『公園』のような立ち位置を目指していきたいのです。 つまり、わざわざ来るような場所から、さりげなく来る場所に進化していきたい。エンタメについても、打ち上げ花火的に大きく仕掛けて、みなさんに「Wow」と言ってもらえるようにしていましたが、もう少し幅を拡げて、出会い・発見・学びがあって、お客様自体が選んで、思い思いに楽しめるようにしたいと。 例えば、OLさんが会社帰りにちょっと立ち寄ってもらって学べたり、家族でぷらっと時間を過ごせるような。 コロナで休館した後に再開した時、ちょっとしたイベントにもお客様がすごく喜んでくれるんですよ。 ここは、リアルに集まって楽しめる空間だと改めて実感し、人が集い、出会うプラットフォームでありたいと思っています。」
取材を終えて
オープン当時は「福岡にもこんなインターナショナルな感じがする施設ができたんだ」と感慨ひとしおだったことをよく覚えています。 それから25年を経て、まさに「福岡らしさを体現するまち」だと実感します。 つまり、国際的な雰囲気をまといながら、誰でも入りやすく、あったかみもあり、ほど良く心地よい。キラキラ感はあるけど、まぶしすぎない。 これからも「いつでもワクワク、だけどほっとする」まちであり、市民のみならず、世界の人から愛される福岡の場所であり続けるでしょう。 文=帆足千恵
キャナルシティ博多
■住: 福岡市博多区住吉1-2 ■TEL: 092-282-2525