野菜王子であり、果物王子だったルドルフ2世の驚異の世界こそ脅威!

「結局さ、ルドルフ野菜王子って寂しい変人で病的な収集家ってことよね」 これが 神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展 を見終えたあとの感想。

あれだけ壮大な驚異の世界を見せられた後に出る感想はこれしかない。 何かの脅威や重圧から逃れるため、病んだ心身を癒すため、不安やコンプレックスから目を背けるため、集められた品はそういう彼の心の闇を埋めるための物に過ぎなかったのではないか・・・ 作品のひとつひとつを目にし、先へ先へ足を進めながら彼の病んだ心から発せられるメッセージを受け取っているような気がしていた。 ルドルフ2世はハプスブルグ家に生まれる。 ハプスブルク家とは古代ラテン人の貴族の末裔であり、10世紀頃、現スイスのライン川上流部で発祥。 政略結婚を推し進め、ヨーロッパ最大の王国を築き上げた。 ハプスブルグ家はカトリックとプロテスタントの争いが混迷を極める中、1576年、父マクシミリアン2世より神聖ローマ皇帝としてルドルフ2世が誕生した。

出典:ファンファン福岡

ざっくりと書けばこうだが、ざっくりと語れるものではない。 彼のメッセージを受け取った私は、帰宅してルドルフ2世のことを調べた。そうすると、面白いサイトを見つけた。 「魔術の帝国 ルドルフ2世の世界」という本の内容を簡潔に解説してくれているサイトだ。ここに、こう書いてあった。 こうして即位したルドルフ2世には数々の特徴がある。 まずもって言語能力が抜群だったようだ。 ドイツ語・スペイン語・イタリア語・ラテン語・フランス語に通暁し、チェコ語もそこそこは理解した。 それなのにルドルフは大の旅行嫌いでもあった。 ルドルフにとっての多言語性とは「観念の世界旅行者」になるための道具立てだったということだ。 そのせいかどうか、皇帝はしだいにプラハの宮殿きっての“引きこもり皇帝”になっていく。もうひとつ、特徴があった。 いや“引きこもり”の理由といったほうがいいのかもしれないが、皇帝は幼少年期からすこぶる病弱で、原因は当時のヨーロッパ社会に通暁していたらすぐ想像がつくだろうが、早くに梅毒に罹っていたらしい。いわゆる「フランス病」(モルブス・ガリクス)である。 1600年前後には自殺を企てたという説もある。 女王エリザベスが天然痘を克服して復活したようには、皇帝ルドルフはいかなかったようだ。

まあ、私が感じたことは見当違いな部分もあるが、政治的能力が全然なかったにも関わらず、皇帝意識は過剰なほどあったそうだから何かしら「闇」を抱えていたに違いない。 展示物は、ルドルフ2世が1583年に首都をウィーンからプラハに移したあとヨーロッパの南北から芸術家たちを集め、特に絵画に力を注いだ。 マニエリスムという、ルネサンス後期とバロックの間にあり、いわゆるマニエラ(手本)を模倣し、更に手を加え強調や歪曲に走る美術スタイル。 否定的な意見も多いが、「様々な手法をつなぎ合わせて作り上げる壮大で美しい世界」という声も高い。 戦争、平和、動物、人物、花など様々なテーマを題材とした作品が並ぶ。 マニエリスムによりエロティシズムな作品も多く生まれ、女性や少年の美しい肌を際立たせた色使いで、やわらかさが伝わる作品もあった。 この頃はオスマン帝国が脅威だった時代、上半身をあらわにした美しい肌の持ち主の女性たちが戯れるているところに、兵士の守り神がトルコ人兵士の侵入を防ぐ絵(ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステイン《ルドルフ2世の治世の寓意》)には何とも言えないエロスを感じ、ギャップに目が釘付けになった。

出典:ファンファン福岡

凌辱された女性が自殺を図るような絵も見られ、平和をテーマにした作品が多かった。 バベルの塔の絵も興味深かった。旧約聖書の《創世記》第11章に現れる巨塔。 ひとつの言語しかなかった人間だったが傲慢になり、いつしか「人=神」と考えるようになった人々が神と同じように天に行けると勘違い。天に向かって塔を建てようとした。 しかし怒った神が70の言語を与え混乱させ、人びとを各地に散らして完成を妨げたというバベルの塔。今の時代も同じだ。 一番興味をそそられたのは、ルドルフ2世の宮廷画家として活躍したルーラント・サーフェリーの動物画。 ヨーロッパや新大陸の森に住む鳥や動物を描いていた。 目に留まったのは、ドードーという絶滅した鳥。 アフリカ大陸の右側、インド洋に浮かぶ島モーリシャスに生息していた飛べない鳥ドードーはヨーロッパ人の占領時代に絶滅させられた。 警戒心もなく行動ものろのろだったドードーは食用にされ、狩りやゲームの残酷な犠牲になり絶滅した。 余談だが、モーリシャスの紙幣にはドードーがプリントされている。 何が言いたいかというと、16世紀ごろに絶滅してから、ドードーを目にした人はいない。でもサーフェリーはどこかでドードーを目にし、描いていた。 ここで、面白いのが世に出回っているドードーの姿はだいたいがサーフェリーが描いた絵が基になっているそうだ。 私が今ままで興味があって色々と調べていたドードーのイメージ画は、サーフェリーが描いた絵が基になっていたということだ。 サーフェリーの絵は今回初めて目にした。 でもドードーの絵は昔から知っている見慣れたものだった。 何だか不思議な感じがした。

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でも、ドードーに興味がない人であればどうでもいい話なので、今回の一番のメインの絵の話へ。 さて、今回のメインは何といっても ジュゼッペ・アルチンボルド!!!!!

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一度見たら絶対に忘れられない強烈な絵。 花、野菜、果物、動物を組み合わせて描く寄せ絵。 アルチンボルドの独特の世界だ。

宮廷画家として25年間仕えて来た彼は、ルドルフ2世の時代も大きく貢献した。 ハプスブルグ家の伝統を守るモチーフを取り入れ、時には新大陸から輸入されてきた野菜を描くことも。 ルドルフ2世がプラハに造った「驚異の部屋」への立ち入りも許されており、帝王が好まない野菜王子となるべくどぎつい絵を描いたのも、アルチンボルトがルドルフ2世の歪んだ精神による真意を汲み取っていたからという。 実際にルドルフ2世はこの絵のできあがりを心待ちにし、完成するとニヤニヤとした笑みを浮かべていたとか。 ウェルトゥムヌスというローマ神話の果物の神に見立て、豊かな実りで皇帝を表すという、なんともまあ奇抜でキュートな作品。 絵画のブースが終了すると、錬金術師が技術を駆使した豪華な工芸品が並ぶ。 さて、今回の美術展は全て見終えた後に最大のお楽しみが待っている。 なんと、自分がウェルトゥムヌスになれるのだ! その体験動画はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=fU5wq4v-oEU

こちらは静止画。なんと、私・・・眼鏡をかけている! 笑いが止まらない・・・。

出典:ファンファン福岡

こちらは、妹の動画。ショートカットの妹は見事に髪の毛に葉物野菜が盛られている。

https://www.youtube.com/watch?v=kBrmAfBpwd8

私が行ったのは、平日の閉館前だったので、2パターンの撮影ができた。 でも休日は長蛇の列ができるよう。 最期に、、、 館内のビデオで「彼が目には何が写っていたのだろう?何を見ていたのだろう?」 とナレーションがあり、銅像の彼の目がクローズアップされた。 それを見て思った。 「彼が見ていたのは、今まさに彼の収集物に群がる我々の姿ではないだろうか」と。 ルドルフ2世が作った驚異の世界は確かに驚異だけど 彼の没後、お宝に殺到する人間の姿は脅威だったろうなと思いを馳せながら博物館を後にした。 まあ、彼は心の闇を抱えていた、、、などと感じたり、 これも私の大きな見当違いであるのかもしれないけれど、散らばっていた名画などを一カ所に集めた展示会ではなく、一人の人間がとことんこだわり自分のために収集したコレクションなので、ルドルフ2世に思いを馳せながら自由に色々なことを想像しながら見ることができ、とても新鮮な経験でした。 驚異の世界展は今月12/24まで百道の福岡市博物館で開催中。

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