新連載! 續・祖母が語った不思議な話:その壱(1)「アビラウンケンソワカ」

 明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」、多くの方からいただいた「続きが読みたい」の声にお応えし、待望の続編スタートです!

イラスト:チョコ太郎

九月も半ばを過ぎた頃、庭の手入れをするために実家に立ち寄った。
思った通り雑草が伸び放題になっていた。
秋とは思えない厳しい日差しに焼かれながら、雑草を抜き終わった頃には日も傾きはじめていた。
シャツを着替え、散歩がてら飲み物を求めて外へ出た。

夏が来るたび肝試しをしたお寺の横を通り、毎日のように遊んだ公園を抜け、小学校をひと回り。
歩いているうちに記憶がどんどん鮮明に甦る。
「三、四歳の頃はおばあちゃんとよくこの辺を散歩したな。そういえば観音さんにも参ったっけ」
それは散歩に出る度に必ず二人で手を合わせた観音菩薩を祀った小さなお堂だった。

「きっと草ぼうぼうだろうな…ついでに抜いてやるか」
そう思いながら角を曲がると懐かしいお堂が見えた。
近づくと雑草もなく、きれいに掃除されていて誰が植えたか曼珠沙華(まんじゅしゃげ)まで咲いている。
ほうっと思いながら見ていると、お堂の裏から声が聞こえた。

「わらびの恩を忘れたか…アビラウンケンソワカ」

声の聞こえた方に周ると三十代くらいの女性が雑草を抜いていた。

「こんにちは。観音さんのお堂、掃除なさってるんですか?」
思わずそう訊くと、少し驚いた顔をしながらその女性は答えた。
「はい。時間があるときに少しだけ」
「そうでしたか。幼い頃によく来ていたところが今も綺麗なのがとても嬉しくて声をかけました。ありがとうございます。それと…なぜアビラウンケンソワカと唱えていたんですか」
「子どもの頃、この場所で髪の真っ白なおばあさんから蝮(まむし)除けの呪文って教えられて…それから草むらに行くときは必ず唱えています」

「…蝮が眠っているうちに伸びて来た茅(かや)が刺さって抜けなくなった。茅はそのまま伸び続け蝮が宙づりになって困っていると側に生えていたわらびがぐんぐん伸びて体を押し上げて助けてくれた。それ以来わらびに感謝している蝮はさっきの言葉を聞くと感謝して去って行く…こんな話じゃなかったですか?」

「そうですそうです! そのお話を聞きました。なぜご存知なんですか?」
「そのおばあさんは僕の祖母です。同じ話を小さい頃に聞きました」
「まぁ!」

その後、観音さんに水を供え二人で手を合わせると女性が唱えた。
「まんまんちゃんあん」
「…それも祖母に?」
「はい。教えていただきました」と笑った。

うなずくように白い曼珠沙華が揺れた。

あわせて読みたい
祖母が語った不思議な話・その壱「神社」  私が小さい頃、明治生まれの祖母は、ちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつ紹介していきます。 イラスト:チョコ太郎  七月の昼下がり…祖...
あわせて読みたい
祖母が語った不思議な話・その拾壱(じゅういち)「髪」  私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。 イラスト:チョコ太郎  「これは私のおじ...
あわせて読みたい
祖母が語った不思議な話・その陸拾参(63)「門付(かどづけ)さん」 おばあちゃんから聞いたちょっと怖くて不思議な話。人気の連載シリーズです。

チョコ太郎より

99話で一旦幕引きした「祖母が語った不思議な話」が帰ってきました!この連載の感想や「こんな話が読みたい」といったご希望をお聞かせいただけるととても励みになりますので、ぜひ下記フォームにお寄せください。

※この記事内容は公開日時点での情報です。

著者情報

子ども文化や懐かしいものが大好き。いつも面白いものを探しています!

目次