皆さんは、産院を選ぶ時、なにを重視して決めましたか?地域に産院の数が少なかったり、逆子や前置胎盤、持病ありなど、お産が難しい場合は、産院を選べないこともありますが、通える範囲にいくつかの産院があるなら、自分の希望に合わせた産院選びが可能です。
「自宅から近くて、いざという時に安心」「無痛分娩の実績がある」「自然なお産を推奨している」「病院が新しくて、入院食が美味しいと評判」などなど、病院の特徴を比べて、産院選びをしても、最後までどうなるのか分からないのが出産です。意外な理由で、希望とは、ほど遠いお産になってしまったケースがありました。

妊娠中の友人が、リサーチを重ねて選んだ産院は、いわゆるセレブな病院でした。病室は全室個室で、まるでリゾートホテルのような雰囲気。 入院食が美味しいと評判で、退院直前のお祝い膳はフレンチのフルコースが出るそう。さらに出産直前の食事も、妊婦さんを元気づけるために、鰻や鮨など、豪華な特別メニューが出ると聞いていました。 また無痛分娩に実績のある病院だったので、友人は迷わず無痛分娩で産むことに決めました。その病院では、妊婦さんが臨月になり、もういつ生まれても良い状態になると出産予定日を決めます。 「無痛分娩だから、痛みとは無縁!もうレストランに食事に行く気分で出産してくるわ」 友人は、余裕綽々(しゃくしゃく)でしたが、その時は、まさかあんなことになるとは誰もが想像もしていなかったのです。 出産予定日の朝、陣痛誘発剤を使い、陣痛が起こるのを待ちます。友人は初産なので、なかなか陣痛がこないまま昼食の時間になりました。昼食は待望の特別メニュー!その日は、艶々のイクラと、ふっくら大きな雲丹がたっぷりのった雲丹イクラ丼が出てきました。 「期待していた以上に美味しそう!雲丹もイクラも大好物!」 陣痛待ちですっかり疲れていた友人も、特別メニューのおかげで気分は上々!インスタグラム用に、雲丹イクラ丼を持ってにっこり笑顔の写真も撮影。 「よし!食べて元気に出産するぞー!」と思った時、突然、ズーンと痛みの波が広がってきました。 初産では、重い生理痛のような鈍痛が、どれほどの陣痛で、子宮口がどのくらい開き始めているのか、分かりません。 このくらいの痛みなら我慢できる…そう判断した友人は、どうしても好物を食べてから、お産に挑もうと、何度も休憩を挟み、一時間以上かけて、雲丹イクラ丼を完食しました。

完食後、いよいよ痛みを我慢できなくなり、ナースコールで助産師さんを呼びました。助産師さんに陣痛の間隔を伝えると、「え!そんなに我慢しちゃったんですか?もう子宮口がずいぶんと開いているかもしれません」と焦って先生を呼び、内診の支度をはじめました。 「私、無痛分娩を希望しているんですけど…。うーー…痛いっっ!!」 我慢できないほどの痛みが、全身に襲いかかります。「これのどこが無痛分娩?!」と予想外の痛みに、入院前の余裕は吹き飛んでしまいました。 その病院では、子宮口が4〜5センチ開くのを待ち、硬膜外麻酔を用いて、完全に痛みを取るのですが、友人の場合、雲丹イクラ丼を食べていた間に、一気に子宮口が開いてしまった様子。 さらに悪いことに、その日は、お産が立て続き、先生も助産師さんも、てんやわんやの状態。なかなか内診がはじまりません。 ようやく先生が来て、内診を受けた時には、子宮口は8センチまで開いていました。
「麻酔が効くまで、時間がかかるので、もう間に合わないかもしれません。それでも麻酔を打ちますか?」 無痛分娩で痛みとは無縁と思っていたので、今更、自然分娩を…と言われても、心の準備ができていません。想定外の痛みに耐えかねて、麻酔をしてもらいましたが、麻酔が効く前に分娩台にのせられ、出産に至ってしまいました。 陣痛の痛みをすべて味わったのに、麻酔を使用したので、無痛分娩の費用はかかります。自然分娩であれば、出産一時金の42万円でまかなえるところを、無痛分娩の費用は、プラス20万円也! あの時の昼食が、雲丹イクラ丼でなければ、子宮口が開ききる前に麻酔をして、完全無痛で分娩できたかもしれません。 「私が貧乏性の食いしん坊なせいで、痛みと無縁なお産が台無しになった!!」 後悔先に立たず…。退院直前のお祝い膳のフルコースを写真に撮って、インスタグラムにアップしながらも、友人のぼやきは止まらないのでした。 (ファン福岡一般ライター)